プラットフォームはブルーオーシャンか?:DOSSIAとHealthVault

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共同PHRシステム開発を目指しているインテル、ウォルマートなど巨大企業連合DOSSIAだが、ようやくパイロット・テストの段階にきたようだ。計画では、まずウォルマートから少人数(20人程度)のPHR試用テストを開始する。その後、参加各社でも試用テストを実施した上で、最終的には全部で数百万人に及ぶ加盟社全従業員とその家族の個人医療情報がPHRに記録される。

雇用者主導PHRとしては世界最大規模のDOSSIAだが、システム開発をめぐるOmnimedix社との紛争などもあり大幅に開発は遅滞したが、昨秋、オープンソースPHRの「Indivo」を正式に採用して以来、かなり早いスピードでパイロット・テストまで持ち込むことができた。DOSSIAコンソーシアムに参加する企業は現在8社だが、今後、参加企業数を拡大し、また全米の州政府などにも参加を働き掛けていく計画もある。これらが上手く進めば、標準化が遅れているPHRの世界で「DOSSIA-Indivo」が有力な標準システムに浮上してくる可能性もある。

一方、マイクロソフトのPHRプラットフォーム「HealthVault」のチーフ・アーキテクトを務めるショーン・ノーラン氏が、HealthVaultの話題を中心とするブログ「Family Health Guy」 を今月21日にローンチした。その最初のエントリーで、HealthVaultのコア・アイデアをノーラン氏は次のように要約している。

  • 個人とその家族が健康を維持できるよう助けるツールで個人をエンパワーし・・・
  • 共有を簡単にしながらも、なおプライバシーを尊重する環境において・・・
  • 彼らが信頼する医療提供者やケアギバーと連携し・・・そして
  • ユニークな専門知識で人々を助けることに寄与するイノベーターのエコシステムを育てること

以上のように語るノーラン氏だが、続いて

「私にとってのHealthVaultは、最も素晴らしいイノベーションの一つである。なぜならそれは、ある難問が必ずしもゼロサム・ゲームである必要がないことを示しているからだ。」

と述べ、つまり換言すればHealthVaultが「ブラディ・オーシャン(あるいはレッド・オーシャン)」には位置していないことを表明している。その際に暗示されているのは「ブルーオーシャン」だが、これは一体何を意味するのか?。

「まず、『PHRではない!』と言うことから始めさせてくれ」とノーラン氏が言うように、当初、「マイクロソフトのPHR」と報道されたHealthVaultであるが、その内実はPHRとはかなり違うものであることが徐々に明らかにされてきたのである。200種類の製品・サービスが乱立するPHR市場はまさに「ブラディ・オーシャン」であるが、HealthVaultが目指すのは、それらPHRを含め個人に提供される医療アプリケーションのプラットフォームであり、なるほどここはまだ「ブルーオーシャン」と言うこともできよう。

「HealthVaultは本当はまったく『アプリケーション』ではない。それは『舞台裏』にあって他のサービス提供を可能とする技術であり、非常にたくさんのアプリケーションに動力を提供する技術だ。そのアプリケーションのうちいくつかはマイクロソフト社製だが、他の大多数は他社によって作られるものだ。」

つまりHealthVaultはプラットフォームであり、PHRであれなんであれ、どのような種類のアプリケーションでもない。HealthVaultの代表的サービスとして米国心臓病協会の「血圧管理センター」 をノーラン氏は例示しているが、このサービスでマイクロソフト社が担当しているのは認証システム、医療データのストレージサービス、そしてプライバシー・セーフガードだけである。さらに重要なことは、この「血圧管理センター」にアップされた医療データは、米国心臓病協会以外の他のアプリケーションからも再利用と共有が可能な点だ。ある意味これは、PCのOSであるWindowsに非常によく似ている。Windows上の多数のアプリケーション群が、特定のデータを再利用・共有できるのと同じであるからだ。つまり、マイクロソフトはWindowsに代表される彼らのこれまでの流儀を、そっくりそのままウェブ医療の分野に持ち込んだと言えるだろう。

だが、「ウェブ上における医療アプリケーションのプラットフォーム」というコンセプトだが、そこには何か強い既視感が存在する。そこには、時間とともに薄れていた「ある記憶」を呼び起こすものがある。それを思い返してみると、そこに「DOSSIA」の名前が浮かび上がってくるのだ。

もともとDOSSIAは、現存する不揃いな規格のPHRの違いを吸収する「ウェブ上における医療アプリケーションのプラットフォーム」として構想されていたのである。(「PHRの共通基盤になるか、DOSSIAプロジェクト」)。そうなると、マイクロソフトがウェブ医療プラットフォーム市場を「ブルーオーシャン」と見るのはまだ早い。そしてDOSSIA陣営がプロプライエタリなシステムを断念し、オープンソースの「Indivo」を採用した点が重要になってくる。

PHR市場のマーケティングは、いま一つの別レイヤーにおける「ウェブ上における医療アプリケーションのプラットフォーム」競争にも今後大きく影響されると思われる。

「オープンソースのDOSSIA」対「プロプライエタリのマイクロソフトHealthVault」

以上のように図式化して改めて眺めなおしてみると、またもや「強い既視感」に襲われてしまうのはなぜだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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