PHRの全米啓蒙キャンペーン

myphr

PHRの啓蒙に取り組むAHIMA(アメリカ医療情報協会)は、PHRの社会的認知促進のための全米キャンペーンを開始する。すでにAHIMAは無料PHRサイト「MyPHR」を設置し、基本から平易にPHRの機能や利用価値が習得でき、実際にPHRを試してみる環境を提供している。

「このキャンペーンは、アメリカにおける患者中心医療と、実際に個人医療情報にアクセスし利用することを学ぶために、われわれのうち多数が前進していく必要があることを伝えるものだ」。(AHIMAのCEOリンダ・クロス氏,Digital Healthcare & Productivity.com,Oct 16,2007)

キャンペーンは四つのターゲット層(シニア、子育て夫婦、家庭介護者、慢性疾患患者)を設定し、来年初めからマスメディアを使用して全国展開される模様。

GoogleHealthやマイクロソフトHealthVaultの話題が盛り上がっていることもあり、医療者、医療IT業界、Health2.0コミュニティではPHRに対する関心は高い。だが、一般の生活者をはじめ社会的な認知や関心となると、まだまだ低いのが実情である。そのため、このような全国規模の認知形成キャンペーンが実施される意味は大きい。

また、AHIMAは1928年創立の医療情報業界では最古参で影響力の大きい団体であり、まだ揺籃期にあるPHRのスタンダード構築への期待も大きい。次世代医療におけるPHRの役割は、今後生活者が医療にエンゲージしていく度合いを強めるにつれ、非常に大きくなっていくと予想されるが、まだまだ不分明な部分も多く残している。

従来のEHRあるいはEMRでは、生活者や患者は医療データを測定される対象にすぎなかった。しかも測定されたデータは、直接生活者がアクセスすることも利用することもできず、医療機関をはじめ各ステークホルダーのもとに分散していた。なおかつそれらのデータはその「測定者」の元に固定して保存され、いわば張り付き、流動することはなかったのだ。

これは、まるで一人の生活者や患者のパーソナリティを分解した破片を、ばらばらに保管しているようなものである。破片だけで、その一人の人間の全人格性を推し量ることができないのと同じように、断片的な検査データだけでその人間の健康状態と履歴を理解することはできないのだ。

これに対しPHRは、さまざまな場所に飛散した破片を一か所に集め、一人の人間の健康状態の全体像を時系列で把握することができる。さらに重要なことは、単なる「測定対象」であった生活者や患者が、PHRでは全データの所有者にして管理者であり、さらに利用決定者でもあるという点である。

しかし、こうなると生活者、患者の主体的関与と責任が強く求められる。従来の医療にあっては「コマンド&コントロール」の支配下に甘んじていた生活者は、今度は自ら「エンゲージ&エンカレッジ」する位置に立たねばならない。これは理屈では、文句なしに素晴らしいことだ。だが実際には非常に難しいことでもある。このあたりにPHRの困難があるのではないだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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