われわれが考える医療ウェブサービス

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今年は当方のTOBYOをはじめ、日本でいくつか従来にない方向性を持った医療ウェブサービスが登場して来ている。今後、さらに新しいサービスがどんどん登場し、シーンが活性化することをまず期待したい。そして、いくつか登場してきた新しいサービスを興味深く見ているうちに、TOBYOの立ち位置や目指すべき方向性について、新たに気づかされることも多い。

それら「新たに気づくこと」は多岐にわたるが、その中で一番重要なポイントを挙げるとすれば、それはわれわれがTOBYOに込めた「こだわり」を再確認させられた、ということになるだろう。その「こだわり」とは、闘病サイト、およびそれらによって形成された闘病ネットワーク圏に対する、われわれの強い「こだわり」である。別の言い方をするならば、われわれは日本の医療ウェブ分野で起きている、闘病者の行動によってもたらされた「ネット的な現象」に対して、かなり強い「こだわり」を持っていると言えるだろう。この「こだわり」の強度によってわれわれのTOBYOは、自然に、よそとはかなり異なる位置に立っているのかもしれない。

このことを少し具体的に説明すると、たとえば、われわれが以前からよく訊かれる質問に、「闘病体験共有ということなら、TOBYOは、闘病記サイトホスティングやコミュニティサービスを提供しないのか?」という質問がある。この質問に対し、われわれは常に「ノー」と答えてきた。かつてそのような機能提供の可能性を検討した時期もあったが、もともと、あれもこれもと「機能の足し算」をすることは考えていなかった。むしろ「引き算発想」によって、シンプルで引き締まったサイトを目指すほうが好ましいと考えている。

そしてこの「引き算発想」は、実は先に述べた「闘病サイト、闘病ネットワーク圏」にこだわり、その歴史と現実に学ぶ中で、自然に生まれてきた想念と言える。このブログで、特にこの春以降の「闘病ネットワーク圏」に関する一連のエントリをお読みいただければお分かりいただけるだろうが、つまり「闘病ネットワーク圏」という大きな「闘病者コミュニティ」がもう既にネット上に存在しており、「闘病サイト」という闘病者の情報活動拠点がブログや通常サイトとして、これも既に存在しているとわれわれは考えているのだ。既に存在しているものを、新たに付け足す必要はない。そう考えて、われわれはコミュニティ機能やホスティングサービスを、結果としてTOBYOから「引き算」したわけである。

個々の闘病サイトをよく観察すればわかるが、そこではコメント、TB、メール、フィードなどが活発に使われて、相互にルースで出入り自由でオープンな、小規模あるいは中規模のコミュニティが、現にあちこちに重畳しながら生まれている。まさに、闘病者同士が「自律、分散、協調」の原則に自発的に従って闘病コミュニティを生み出し、それらが組み合わさって、闘病ネットワーク圏とわれわれが呼んでいる「闘病のミクロコスモス」を形作っている。

ネット黎明期以来、どの医療関係者よりも早く、闘病者(患者、家族、友人)はインターネットのメリットを理解し、自分たちの体験を共有すべく活用してきたのである。あとから来たわれわれは、まず彼らが構築した闘病ネットワーク圏に対し、謙虚に学ぶことから始めることになるだろう。あとから来たわれわれは、むしろ闘病ネットワーク圏を所与の生存環境と受け止め、その中でどのように自分たちのサービスが「生かしてもらえるか」を考えなければならないだろう。このような強い「こだわり」がわれわれにはある。だから、TOBYOは、あくまで「闘病ネットワーク圏を可視化するツール」であり、「シンプルかつ便利」というツールとしての本質を極めたいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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