全米ナンバーワンの医師SNS「Sermo」のCEOであるダニエル・パレストラン博士のインタビュー記事が「HealthLeaders News on Oct.31. 2007」に掲載されたので、その概要をまとめておきたい。Health2.0の成立要件を「Sermo」に探ってみよう。
昨年9月にローンチして一年ちょっとの間に、押しも押されぬナンバーワン医師SNSの座を獲得したSermo。この「Sermo」とはラテン語で「会話」を意味する。この企業を立ち上げたCEOのダニエル・パレストラン氏はジョンズ・ホプキンス大学で科学史の博士号を取得し、デューク大学で医師資格を取得した。ベス・イスラエル病院外科研修医の三年目の時、椎間板ヘルニアのため病床に伏せる。病気が回復する間に「Sermo」のビジネスプランを作成。それから数年間、アイデアを温めた。
パレストラン氏は「Sermo」のビジョンを見渡した。彼はSermoを医師にとって価値あるリソースであることを確固たるものにするために集中した。パレストラン氏の最初の医療情報技術体験は、彼がCIBUR(CIGNA Internet Based Universal Resource)の配備を着想し、計画し、提案し、そして管理したときにはじまる。これは、医師および提携プロフェッショナルのための、最初の商用ウェブベース医療リソースの一つであった。
彼は最初の会社Azygos社を1998年に作った。220万ドルの資金調達にも成功した。そして2001年5月にBioNetrix社に会社を売却。Azygos社を売却したのち、BioNetrix社の医療担当役員に就任。そこで彼はネットワークセキュリティを高め、患者プライバシー保護を改善し、そしてHIPAAに準拠する医療フォーカス・ビジネスに従事した。
生来の起業家であるゆえだろうか、パレストラン氏はインターネットベースで束縛のない会話フォーラムのための場所を思いついた。そこでは免許を持つ医師が、外部の第三者に煩わされることなく、自由に率直に遠慮なく、彼らの意見をお互いに話せるのだ。サイトへのアクセスは、米国でライセンスを取得している医師のみに限定する。これが彼が持ち続けた計画モデルである。
ビジネスプランを書く前に、彼は医師が多忙過ぎて暇がなくなってきていることに気づいていた。彼らは面倒な保険を処理し、電子記録装置を設置し、一層の返済金低減をこなし、生計を立て、そして帳尻を合わせるのに頭がいっぱいであった。多くの医師には、相談するために会い、アドバイスし、意見を交換するスタッフルーム、病院の廊下、そして他の場所で、もはやお互いに話す時間がなかった。
けれども彼は、医師が医療制度における原動力であることをよく知っていた。医師たちは、なんやかやで医療コストの80%を取り仕切っているからだ。そしてビジネスリーダー、医療エクゼクティブ、マーケティング専門家、そしてベンチャーキャピタリストが、医療費は国民総生産の六分の一を占めていることを認識しており、医師がどのように制度を考え、イノベーティブな市場導入製品にどんな反応をするかに、重大な関心を持っていることを、彼は知っていたのだ。
要するにパレストラン氏は、企業経営者やベンチャーキャピタリストが、医師たちが考えていることに重大な関心を持っていることを感覚的に気づいていたのだ。金融機関、医療機関、そして政府は医師たちの傾向と意見についての情報に飢えていた。
椎間板ヘルニアで背中が不随になっていたが、パレストラン氏は彼のビジネスプランを書き、ベンチャーキャピタリストに接触し、過去に起業した経験に学び、そしてマネジメント・チームを招集した。今にして思えば、椎間板ヘルニアをセレンディピティと彼はみなしている。それは彼に、ビジネスプランを考え抜き、系統立てる機会を与えたからである。
その後のことは承知のとおり。Sermo.comはベンチャーキャピタルから3900万ドルを獲得し、35000人の医師を、そのサイトでの投稿、コメントそして情報探索で引き付けている。また継続して一週間に1000人の新規ユーザーを獲得しており、三月には米国医師会とアライアンスを結び注目を浴びた。
以上が「Sermo成功物語」の概略である。Sermoの経営者はベンチャー起業家だとてっきり当方は思い込んでいたが、医師出身者であることがわかり意外であった。なぜなら「Sermo」はかなり一貫したマーケティング・ビジョンによって構築されているような雰囲気があり、そこは相当経験を積んだエキスパートが数多く参画しているのだろうと、勝手に推測していたからでもある。
「Sermo」の成功の意義は大きい。今後Health2.0が本格的に起動するためにも、「Sermo」のようなサクセス事例が存在することは心強い。これで「プロフェッショナルSNS」というものが、ビジネスとして存続可能であることは実証された。ただ、「Sermo」のマネタイズ手法にはまだ不分明なところも多い。ある会員のブログには、「ある日、Sermoにログインしてみると、管理者からメッセージが届いていた。『先日、あなたがポストしたエントリーに、あるクライアントが興味を示しています。より詳しいレポートを提供してもらえれば、とりあえず20ドルを進呈します』との内容。驚いた。と同時に、何か馬鹿にされたような気分。20ドルで買収しようとでも言うのか?」と戸惑いと反発が記されてあった。
また「Sermo」の以上のようなやりかたに、「Knowledge Prostitution」という非常に厳しい批判までされているのも事実である。参加メンバーに発言・質問・回答を促すことは、大変に難しいことだろうが、キャッシュ提供では、もろ露骨すぎるきらいもなきにしもあらずである。
では、たとえば患者SNSなど、プロフェッショナルSNS以外のSNSビジネス成立の可能性はどうであろうか?。これはプロフェッショナルSNS以上に難しいと予想される。このあたり、また改めて考察したい。
三宅 啓 INITIATIVE INC.
Sermoに関しては、ファイザーが提携をしたことで注目していました。しかし、背景やビジネスモデルがイマイチはっきりしていませんでした。
三宅さんの上記の記事で、すっきりしました。
http://blogs.dion.ne.jp/lou/archives/6327751.html