患者SNSとウェブ闘病記の考察

kanjasns

昨日のエントリーでプロフェッショナルSNSの成功事例として「Sermo」を取り上げたが、では患者SNSはどうだろうか。このブログでも過去にいくつか米国の患者SNSを紹介してきたが、米国におけるその活発な展開とは逆に、目を日本に転じれば非常にその数が少ないことに驚くのである。この「落差」はいったい何に起因するのだろうか?。

今後、日本でももっとたくさん患者SNSが登場してほしいものだが、そう言えば米国と日本で傾向が相反するのは患者SNSだけではない。たとえばウェブ闘病記だが、米国では、日本のような質量ともに充実したウェブ闘病記を目にすることはまずない。われわれが新たな医療サービスの事業プランを立案する際に、まず着目したのはこの日本におけるウェブ闘病記の層の厚さであった。そしてウェブ闘病記を患者生成コンテンツ(Patient Generated Contents)と捉えるところから、「TOBYO」(トービョー)の基本プランは立ち上がったのだ。

それはともかく、日米の傾向の差異は次のように整理ができる。

  • 日本: ウェブ闘病記は多く、患者SNSは少ない
  • 米国: ウェブ闘病記は少なく、患者SNSは多い

では上のように患者SNSとウェブ闘病記が、日米でちょうど逆の関係になっている事実があるとして、いったいこれは何を語っているのだろうか?。おそらくそれは、まず日米のプライバシー観の相違を語っているのではないかと思われる。以前にも触れたことがあるが、日本のウェブ闘病記は匿名で書かれる場合がほとんどだとはいえ、自分の検査結果から手術動画に至るまで、それこそ詳細を極める具体情報が公開されていることにしばしば驚かされる。それに対し米国では、たとえSNSという外部を遮断した空間であっても、個人を特定できるような具体情報が出されることは一切ないようだ。

この相違は、もちろんどちらがどうという問題ではなく、単に日米市民の気質の差異を語るものにすぎないのだが、一般的に日本のほうが、闘病記というスタイルをとった患者闘病情報が、質量ともに豊富に公開されていると言ってもかまわないだろう。

さて、日本における患者SNSの競合環境を考える場合、ウェブ闘病記の他に患者掲示板の存在も忘れてはならないだろう。ウェブコミュニティとしてはもはや時代遅れでロウテクであるとはいえ、たとえばYahoo掲示板など、患者コミュニティとしていまだに無視できないパワーを持っている。さらに患者SNSは、ミクシィなど汎用型SNSとも競合するだろう。

以上のように考えてくると、日本における患者SNSというものは、すでにウェブ上に作られた「患者体験共有の文化」を変えていく程のインパクトを持つ機能を装備する必要がありそうだ。米国の場合、患者体験はもともとウェブ闘病記というスタイルを持たず、あとから出現した患者SNSが比較的容易に回収することができた。別の言い方をすれば、それ(患者SNS)は米国の患者体験共有文化に合致するスタイルであった。日本の場合は、先行するウェブ闘病記という情報共有スタイルに対し、新たな魅力的なチャネルを創造して誘導する必要があるかもしれないのだ。

これは当方の勝手な仮説であるが、患者が生み出す闘病情報というものは、ある限定された一定の総量を持つように思える。ウェブのライフサイクル等の外部要因による変動はあるとはいえ、実は一定の量の「パイ」という形でイメージすべきなのかも知れない。そうであれば、やはり「一定のパイをめぐる競争」というのが、実は患者生成コンテンツのみならずUGC一般のマーケティングに充当するのではないかと思えるのである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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