次世代PHR開発プロジェクト:Project HealthDesign

healthdesign

医療ITの世界では、今年になってPHR(Personal Health Records)に注目が集まり始めたが、「Google Health」の試行錯誤を見てもわかるようにまだ難問は山積している。だが、雇用者主導型のDOSSIAをはじめ、保険会社、医療機関などさまざまな関係者が入り乱れ、それぞれのPHR開発に取り組んでいる。

これらとは別に、次世代の革新的なPHRを生み出すべく一つの開発プロジェクトが始動した。「Project HealthDesign」は財団法人ロバート・ウッド・ジョンソンと財団法人カリフォルニア・ヘルスケアが共同出資し、ウィスコンシン医科大学が事務局を務めるPHR開発に特化した協同プロジェクトである。投資総額は4.4百万ドル(約5億円)。開発期間18ヶ月で新しいPHRを創造することをめざしている。

このプロジェクトの下には9つの開発チームが編成されているが、これは応募件数165件の提案コンクールから選抜されたチームである。それぞれのチームのプロジェクト・テーマは以下のとおり。

  • 乳がん患者のためのカスタマイズ・ケア・プラン
  • パーソナル・ヘルス・マネジメント・アシスタント
  • 糖尿病自主管理のためのPHR
  • 外来診療間の慢性疾患投薬管理
  • 子供特化型個人投薬管理システム
  • PHRと連携するPDAアプリケーションによる慢性疼痛管理の支援
  • 潜在的リスクを持つ成人のためのPHRシステム
  • ヤングアダルト向けのトランスメディアPHRシステム
  • ケア遷移による高齢者支援

以上のプロジェクト・テーマを眺めると、包括的なPHRの開発ではなく、疾患やライフステージ別に特化したPHRの開発が主眼となっているようだ。この9チームは多彩な専門家から編成されているが、それぞれ30万ドルの資金を供与されている。この中の「潜在的リスクを持つ成人のためのPHRシステム」プロジェクト・チームのメンバーであるBarbara Leah Massoudi博士が、最近発表したプレゼンテーションを参考までにアップしておこう。

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たとえば、ネット上で個人が銀行口座を管理したり証券取り引きをおこなったりすることは、すでに一般的になっている。プライバシーやセキュリティに関するリスクは、これらネット上の個人金融行動にも存在するのだが、それを上回る利便性がネット利用を促進しているわけだ。では個人医療情報はどうか?。

医療IT化とは結局、個人医療情報をデジタイズして管理するシステムに最終的に到達せざるを得ないだろう。一般的な医療情報のフローと利用だけでは、IT化の本当のメリットはユーザーに還元されないからである。だがその個人医療情報の「管理主体」が問題になるのだ。

従来のEMR、EHR、RHIOなど、あるいは日本で計画されているらしい「電子健康保険証」などは、すべてユーザー本人が自分の医療情報管理を行うシステムではなく、医療機関をはじめ諸関係者が「管理主体」として想定されている。これに対しPHRだけが、ユーザー本人を管理主体として想定している。ここが諸医療ITシステムの中で、PHRが根底的に異なる点である。

この「Project HealthDesign」がこのようなPHRの独自なポジションに、どのような斬新な視点と価値を追加してくれるか期待したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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