慢性疾患のマーケティング

healthmiles

新健康診断

来年から新健康診断が開始され、40歳-74歳のすべての国民は、毎年、義務的にこれを受診することになる。このブログではこの問題を何回か取り上げてきたが、国家が「義務としての健康」を生活者に課すというような「国民運動」的発想が、何か根本的に間違っているのではないかと思えるのである。いや発想が間違っているのみならず、その実効性もきわめて疑わしいのだ。そもそも、このような発想と運動論で、実際に生活者国民が果たして動くものだろうか?

「国民運動」論の問題と限界
この「国民運動」にはそれこそ国家的規模の大キャンペーンを打つ必要があるが、そこに投じられるキャンペーンコストや健康ITカードなどの運用コスト等と、「慢性疾患退治」の結果として得られる国民医療費削減効果について、いったいどのような試算がされているのだろうか?。

たしかにメタボリック症候群に代表される慢性疾患の改善は、その後の疾病リスク低減と、その結果としての国民医療コスト削減につながることは事実であろう。だが、このような国家主導型の「国民運動」では、その目的とする経済効果を得ることはむつかしいのではないか。

そこにはいろいろな原因が予想されるが、第一に生活者がこの運動に参加するインセンティブが弱いということが挙げられる。この「国民運動」に、生活者が自発的に参加するモチベーションやメリットは何なのか?。これがはっきり言って見えないのだ。「慢性疾患の恐ろしさ」をキャンペーンでいくら宣伝してみても、つまり医学的な言葉で生活者・国民をいくら教化してみても、それが自発的参加につながるとは考えにくい。

端的に言えば、「自分が得をすることにしか関心を持たない」という生活者の本音の生活ロジックをわかっていない。だから、たとえいくら政府が「国家的キャンペーン」を打ち、躍起になって「国民運動」を起動しようとしても、笛吹けど踊らずになるのは目に見えている。

であるから、このような「国民運動」ではなく、もっと有効な方法を考えるのが得策というもの。はっきり言って、もはや国家が、政府機関が、生活者国民を「領導」しようなどと考えてはいけないのだ。問題は生活者国民が喜んで参加してくれるような仕組みを作ることであり、これは民間主導のマーケティング発想で組み立てたほうが良いに決まっている。

健康インセンティブビジネス

ということで、長すぎた前振りをやや気にしながら、欧米のヘルスケア市場に目を転じると、慢性疾患予防をインセンティブビジネスとして展開している例が増えてきている。慢性疾患の恐ろしさを、アタマでわからせてもカラダはついて来ない。だが、目に見えるインセンティブを付けて、「楽しく、健康になって、儲けよう!」と来れば、カラダもついてこようというもの。

米国医療保険会社であるヒューマナ社はヴァージングループと組み、“Virgin Life Care”という慢性病対策など健康改善サービスの提供を始めた。このサービスのコアとなるのが”HealthMiles”というポイント・インセンティブである。参加者は健康のために運動し、成果を計測し、ゴールを達成すればするほど、このインセンティブを稼ぐことができるのだ。

この”Virgin Life Care”に参加できるのは

・フリンジベネフィット(福利厚生)としてこのサービスを採用している企業の従業員
・ヒューマナ社の個人医療保険加入者
・ヴァージングループと提携するフィットネスクラブの利用会員

以上のいずれかに属する人である。つまりこのサービスは医療保険会社、フィットネスクラブ、雇用者、そしてヴァージングループのようなコンシューマブランドの四者が提携して成立しているわけだ。

参加者がインセンティブを獲得する方法は、まずサインアップ時に1000ポイントが与えられ、それから健康改善のために、GOZONE(万歩計)、HEALTHZONE(近所の指定フィットネスクラブ、職場の健康キオスク)、LIFEZONE(個人健康データWebサイト)などのツールを使い、「所定の運動実行、結果測定、目標達成」のステップを通じて、目標が達成されればされるほどポイントが加算されていく仕組みである。また獲得したポイントだが、ヴァージングループとグループが提携する世界中の店でのショッピングに使用できる。

生活者から見て「得して健康になる」サービス、まさに一石二鳥。これなら自発的に参加してもいいかな、という気も起きるだろう。最近このようなサービスは、米国の医療保険会社やインセンティブ専門会社を中心に提供が始まっている。

・シグナ社の”Health Rewaqrds”プログラム
・アエトナ社の”ActiveHealth”
・インセントワン社の医療特化型インセンティブ・サービス

国民にお説教するような「国民運動」型の健康改善は、発想が古すぎて誰も参加しない。日本医療も、もっと民間の知恵と活力に任せ活かす領域を拡大し、他の産業分野で成功しているマーケティング発想を取り入れても良いのではないだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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