米国医療改革をめぐる主要議論

reform

医療改革といっても米国の場合、さまざまな提言が入り乱れ、状況は混沌としている。だが、おおむね四つの方向性として改革議論を整理することが多いようだ。簡単にこれらの議論の要点をまとめてみたい。

・現状維持派
米国医療界における主流派。どんな有意義な改革であっても、結局、それは誰か特定利益集団の既得権益とぶつかるだろう。ゆえに改革をやらないことが主流派となる。だがこれとは逆に、極端な現状維持もこの医療費高騰の時代にありそうもない。

・シングルペイヤー派
シングルペイヤー派が改革の主流になることは難しいだろう。というのは米国の文化との相性が良くないからだ。たとえば政府に対する不信、漸進主義への選好性、大増税を必要とする計画に対する嫌悪、そして今回のマサチューセッツ州、カリフォルニア州、ペンシルバニア州、イリノイ州における医療保険全員加入制をめぐる諍いなど、米国文化が示している方向とシングルペイヤー派は合致していない。だが、民主党が2008年大統領選挙に勝てば可能性はあるかもしれない。ひょっとするとアメリカ人は、ひとつの予算ソースでシンプルに、わかりやすく、そして公平に物事を考えたがるかもしれない。(?)

・消費者駆動型システム派
消費者駆動型システムは、消費者に説明しにくいという致命的欠陥があると言われている。ペイヤーと一般大衆全体にとって、この改革路線は政治的にあまりにもゆっくりと進みすぎであるとも指摘されてしまっている。この改革路線の核心的要素として、しばしば言われていることは、

・より多くの医療選択肢
・全家庭に対する一律15000ドル税額控除
・法人と個人に対する医療費の同率税控除
・医療貯蓄口座
・医療過誤改善
・保険市場を州を超え全国化する

となる。この改革が現実のものとなるためには、2008年共和党大統領の誕生が必要となる。マイケル・E・ポーターなど、経営学者が理論的主唱者。

・シリアス・マネージドケア派
これは近年の保険会社による医療管理(マネージドケア)をさらに徹底する考え方だ。この考え方のポイントを挙げると。

  • 三つの透明性:クオリティ、価格、アウトカムの透明性
  • 三つのP:プロバイダー・プロファイリング、
    P4P(Pay for Performance)、プロトコル
  • 大きなE(exclusion):「三つのT」や「三つのP」に注意を払うことができない医師や病院のネットワークからの放逐(exclusion)。

この改革路線は、医療保険会社が病院、医師を取り締まり追跡する、ムチとマネジメント・プラットフォーム、そして情報技術を持つ強力な存在であることが前提となる。ただ、近年のマネジドケアは「患者に医療を受けさせない」との強い社会的不満があるので、従来路線を強化していくことは難しい。

これら四つの路線が入り乱れて米国医療改革論議が進んでいるが、来年の大統領選挙、それぞれの改革路線の中心メンバーの意向などが絡み、その近未来像は定かではない。また、これら四方向に納めきれない提言もいっぱい。まるで、先進国における「医療システム改革論議のショウケース」といったところか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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