映画「SiCKO」をめぐるGoogleの失態

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先週末、Googleのオフィシャルブログ”Google Health Advertising Blog”で、同社医療広告チームのアカウントプランナーのローレン・ターナー氏がポストしたエントリー“Does negative press make you Sicko?”が、今週に入ってマスコミやブロゴスフィアで猛烈な反発の嵐を呼んでいる。「マイケル・ムーア監督の映画「SiCKO」を批判して、Google広告を売り込もうとしている。こんなやりかた、あり?」とGoogleに対し強い反発が巻き起こった。

映画「SiCKO」を批判して医療業界から広告集め

以前の当方エントリーでも、コーポレート・コミュニケーションの一環としての企業ブログの難しさを指摘したことがあったが、ちょうどその格好の事例が、まるで降って湧いたかのように米国で生起した。

6月29日、Googleの”Health Advertising Blog”に「ネガティブ報道で気分が悪く(Sicko)なってません?」と題するエントリーがポストされた。そこにはマイケル・ムーア監督の話題作「SiCKO」について次のように言及されていた。

「政治家や弁護士や一部の患者グループなどは興奮しているようです。しかしわれわれは逆に憂慮を深めています。当然でしょう。ムーアは保険会社、医療機関、製薬会社などを、医療分野で起きた偶発的な最悪な例と結びつけて感情的な物語をこしらえています。ムーアの映画ではこの業界が金を儲けることだけに動かされているように描写されており、ヘルスケア産業が患者の健康と福祉のために尽くしていることが無視されています。」(TechCrunch Japanより訳引用)

そしてこれらの医療業界批判に対して、次のような反論機会と手段を提案している。

「Googleの検索連動広告や拡大をつづける関連ウェブサイトを利用してテキスト広告、ビデオ広告、マルチメディア広告などを駆使することが必要です。どんな問題にせよ、Googleはあなたのメッセージを伝えて公衆を啓蒙するプラットフォームとして利用可能です。」(同上)

つまり

  • ムーア監督やメディアが『ヘルスケア産業が患者の健康と福祉のために尽くしていること』を無視して一方的な医療業界攻撃をしている
  • それに対抗し、広告キャンペーンで公衆を啓蒙し反撃することができる
  • Googleの広告物件は医療業界キャンペーン・プラットフォームとしてクライアントにお役立ちできる

大意、以上の内容がエントリーで記されていたのである。

二つの批判

これに対し、メディアやブロゴスフィアからすぐさま反論が立ち上がった。まず、「Googleは医療エスタブリッシュメント側に立つのか?」という批判である。これは、やはり先週末に発表された「医療諮問委員会」のケースでも、そのメンバー構成をめぐって問われたことであった。

ちょうど先週、当方ブログで「GoogleHealthを予想する」と題するエントリーを三回に分けてポストした。そこでも少し触れたのだが、Google Healthに対しては、「従来の医療エスタブリッシュメントのメンバーではないGoogleだからこそ、何か新しい変化を生み出してくれるのではないか」という大きな社会的な期待が寄せられているのである。これまでのアダム・ボスワース氏の発言をたどって見ても、Googleがトラディショナル医療メンバーと制度に対し、かなり批判的に見ていることは明瞭に感知されるのである。

だから「一方でGoogleHealthのような医療改革プロジェクトが動いていながら、他方、同じ企業でありながら、どうしてこんな医療エスタブリッシュメントを擁護するようなコメントが出てくるのか?」と、とりわけブロゴスフィアから強く批判されたのである。

次に、「SiCKO批判に便乗して、自社広告物件を売ろうとするようなやりかた」に対する批判がある。「SiCKO」のようなセンセーショナルな作品は賛否両論あり、それを一企業が、どちらにせよ一方の評価側に加担するのは、明らかにまずいやりかたで得策ではない。しかもその上、明け透けに自社物件販売へ誘導するような金儲け主義が歴然であるならば、企業イメージは大きく損なわれるであろう。

Googleの対応

真っ赤に炎上するこれら批判の深刻さを見て、Googleは早速事態収拾をはかった。まず、当事者のローレン・ターナー氏が”My opinion and Google”という釈明エントリーを出し、前エントリーがターナー氏個人の意見であり、Googleを代表するものではなかったとしている。また、7月2日付けでGoogle公式ブログに「Googleと医療」と題されたエントリーが同社プロダクト・マーケティング・マネジャーのミシー・クラスナー氏の名前で公表された。クラスナー氏については以前のエントリーでも取り上げているが、GoogleHealth開発チームの一員である。

クラスナー氏は、ターナー氏の発言がどのような反響を呼ぶか事前に判断できなかったGoogleの失態を認め、Googleがアメリカ医療の現状に関する多数の懸念をマイケル・ムーア監督と共有することを表明し、「われわれはこれらの問題が重要であると考え、われわれの従業員を彼の映画へ招待し、1000人近いGoogle従業員が映画を見たのである。」と述べている。
また、Googleが現状の医療にあきたらず、医療改革をめざすためにGoogleHealthを開発中であることを改めて確認している。

今回の一連の騒動は、企業ブログ、またはソーシャルメディアを企業がどのように活用すべきか、あるいはブロゴスフィアで何をしてはならないか、を考える一つの参考事例となった。またうがった見方をすれば、今回の事件は、米国医療に対する大きな関心を喚起した映画「SiCKO」のプロモーション活動としても、ひょっとして一役買ったのではないだろうか。陰で喜んでいるムーア監督の顔が目に浮かぶ。
<関連情報>

“Ad Innovator”今日の解説:Google医療業界広告ブログが炎上

“ZD Net”
U.S. healthcare industry:
Google wants to protect you from Michael Moore’s Sicko

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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