「健康ITカード」は誰のために?

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昨日、「保険証をICカード化」というニュースが各紙で報じられました。「厚生労働省は14日、健康保険証にICカード機能を搭載し、過去の病歴や受診内容を患者や医師がパソコンで確認できる「健康ITカード」(仮称)を導入する方針を固めた。情報化で医療効率化を高める。」(日経3月15日朝刊)

この「健康ITカード」によってアクセスできる情報は以下のとおり。

・診療履歴
・持病
・薬の副作用
・アレルギー

上記以外にもアクセスできる情報はあるでしょうが、今のところ医療者側と患者側からこれら情報にアクセスできるとされています。「カード」ということが大きく前面に取り上げられていますが、むしろそのカードによってアクセスできる情報システム全体がどのようなものであるかが問題となります。そこが新聞報道でははっきりしませんが、まだ、これから検討されていく段階なのかもしれません。

目的は「医療効率化-医療費削減」

ではこの「医療情報システム」はEHRなのか?、PHRなのか?、それともそのいずれでもないのか?。それを知る手がかりは、この厚労省構想の目的にあります。第一の目的は「医療効率化」であり「医療費削減」であることは容易に察することが出来ます。次に医療機関側が患者の病歴、診療歴等情報に即座にアクセスすることを可能にすること、そして、患者が自分の健康情報を把握することによって健康管理に活用すること、などが新聞記事を読む限りわかります。

そのように見てくると、この構想は日本医療の効率化を、まず主としてコスト削減にフォーカスしながら推進するための全国レベル医療DBとして想定されており、副次的に患者が自己データを確認したり、医療者が業務利用できる二次機能が用意されている。というところでしょうか。

国民皆保険制度が実現している日本では、米国などに比べ、このような国民医療全体に網をかけるシステムはむしろ作りやすいといえます。医療コスト削減のためであれ何であれ、いずれこのようなシステムが構築されることは想定されることでした。またこれがEHRかPHRか、というふうに問題を立てると、どちらでもないということになるし、ある意味でどうでもよいことです。問題は、生活者・患者側のメリットです。

影薄い生活者・患者のメリット

新聞記事には「効率化、医療費削減」などの言葉が踊っていますが、生活者・患者のメリットは注意して見なければわからないほどの扱いです。「患者も自分が受けた診療内容を確認することができる。(中略)患者自身も健康管理をしやすくなる。」これが日経記事に記された生活者・患者のメリットのすべてです。

どうやら、今回発表された構想は、生活者・患者側が自由に使える機能は少なく、早い話が「自分の情報が見られる」程度の消極的な「閲覧行為」に限定されているふしが見えます。むろん、自分の過去の健康・医療情報がすべて一箇所に集約されていることの利便性は評価できますが、さらに情報を書き込んだり必要な場所へ送ったり、家族で共有したり、という主体的な情報利用の場面が想定されていないように見受けられます。つまり、医療ユーザーとしての生活者・患者のベネフィットは、後回しにされているということです。

「患者のエンパワーメント」というコンセプト

このように「本来、医療システムのユーザーは誰なのか」という大前提を忘却し、「患者のエンパワーメント」というコンセプトが中心化されていないシステムは、最初から低利用率が約束されたようなものであり、結局、第二、第三の「e-TAX」になってしまうということです。

「ICカード」が前面に出ているということからして変な話です。カードは単なる認証のツールであり、本質は医療情報提供システムの設計思想とユーザー・オリエンティッドなアーキテクチャです。結局、「ユーザーである生活者・患者に、どこまでたくさん使ってもらえるか」が勝負であり、そこでこのシステムの価値は決まってしまうのです。

さて、昨日、新しいPHRサービス”MyMedicalRecords”を紹介しましたが、今後もPHRには注目していきたいと考えます。今回の厚労省の構想などを見ても、ますます生活者・患者の個人医療情報ツールが重要になって来ると思えるからです。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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