米国で医療IT化の重要な一翼を担うと期待されたRHIO(地域医療情報機関:Regional Health Information Organizations)であるが、その中でも早い時期に設立されたカリフォルニア州のサンタ・バーバラ群医療情報エクスチェンジの破綻が今月3月になって明らかになった。
RHIOとは
RHIOは地域の医療機関の間に立ち医療情報共有機能を果たす。近年、EHRの導入は各病院で進められてきたが、それらEHRシステムは異なるITベンダーから調達されており相互にコミュニケーションが出来ない。つまりいくらEHRが普及しても、たとえば同一患者の医療情報を複数の病院で共有するようなことはできないのである。
米国政府のNHIN
米国政府は2004年10月、この状況に対し「医療情報のさらなる患者中心化により、医療業界に革命を起こす」とのステートメントをHHS(US Department of Health & Human Services) を通じて発表し、要約すれば下記の三層の医療情報共有体制整備を公約したのである。
1.EHR(Electric Health Records)
2.RHIO(Regional Health Information Organizations)
3.NHIN( National Health Information Network)
つまり、病院、地域、全国の順に医療のIT化を進めていくというシナリオである。地域における医療情報共有の要としてのRHIOは、さらにRHIO同士がデータ共通基準に基づき相互接続され、最終的に全国医療情報システムへ統合されるわけである。
セキュリティとコスト
ところで今回破綻したサンタ・バーバラ群医療情報エクスチェンジであるが、設立は1998年と全米でも最も早い時期に設立された老舗RHIOである。破綻の主たる原因は、やはりセキュリティの問題とコストの問題の二つであるが、この二つこそは、医療情報共有サービスと関連ビジネスにつきまとう根本的な問題のありかを示している。
このRHIOのケースでは、セキュリティ技術の面ではほぼ問題は解決されていたようだが、それにもかかわらず参加病院メンバーからセキュリティに対する懸念が常に出され、結局、これを払拭できなかったようだ。また、このセキュリティ確保のためと、共有データの参加病院間フィルタリングのために多大なコストが発生した。また、このRHIOの財政基盤はカリフォルニア医療基金のファンドと政府の補助金であるが、本来、参加病院から入るはずの売り上げが、参加病院側が「データ共有事業」に価値を認めず、結局、思うような売り上げが立たなかったのが痛かったようだ。
カリフォルニア医療基金では建て直しをめぐり、当面、オープンソースのソフトウエアに切り替え、他地域のRHIOとのソフトウエアの共同開発と共有を模索しているようだ。これによって、従来、ベンダーに支払われてきた予算を全面的に削減することになる。
技術論だけのセキュリティ論議の危うさ
「参加病院側がデータ共有事業に価値を認めない」ということであるが、もしもこれが事実なら米国政府のNHIN構想は根底から瓦解してしまう。そして、「セキュリティとコスト」のトレードオフの問題がここでも問われている。日本でも「医療情報のセキュリティ」をめぐり厚労省が標準規格化を進めているようだが、結局、コストを度外視した単なる技術論ではサステナブルな仕組みを作ることは出来ないことが、今回のRHIO破綻でも明らかになった。「セキュリティの過剰装備」は税金の浪費につながることは間違いない。このあたり、池田信夫氏ブログのエントリーが大変参考になる。
Source: GovernmentHealthIT