患者SNSと燃え尽き症候群

「米国における唯一正真正銘の患者SNS」とか「最も成功した患者コミュニティ」などと称賛されるPatientLikeMeだが、調査報告書「オンライン患者コミュニティPatientLikeMeの内部における個人医療情報の共同利用:患者が他の患者のデータにアクセスすると何が起きるか?」が「Journal of Medical Internet Research」に発表され、大きな話題となっている。

PatientLikeMeが他の患者SNSと決定的に違うのは、他の患者SNSがどちらかといえばメンバー間の「穏やかな交流」を提供するのに対し、PatientLikeMeだけがメンバー間の徹底的な医療情報共有にこだわっている点であるだろう。また、PatientLikeMeはALSなどの難病をターゲットにしており、「治療方法が確立していない病気と闘う」ための強い目的意識を参加メンバーに求めている点も、他の患者SNSとは際立った違いといえよう。

「メンバー間の医療情報共有」とは言え、ここで言うところの医療情報は、普通ならプライバシーとみなされている個人医療データのことを指す。Google HealthなどPHRのような新しい医療情報サービスが登場するたびに、米国社会では絶えず「プライバシーの危機」がプライバシー保護団体などから表明されてきた。それを思えば、たしかにPatientLikeMeのような、プライバシーをあたかも無視するかのような「個人情報の共有」にこだわる患者コミュニティの存在は奇異ですらある。

そこにあるのは「プライバシーよりもアウトカムが優先する」との固い信念なのだが、時として、それにはついていけない「燃え尽き症候群患者」を輩出する事態にまで至っている。3月23日ニューヨークタイムズに掲載されたPatientLikeMeを肯定的に報じる記事「Practicing Patients」に対し、4月6日同紙に「元PatientLikeMeメンバー」からの投稿が掲載された。

私も多発性硬化症と闘い、可能な限り情報を共有することに努めた。私は自分の病気を管理するために非常に積極的であった。しかしNYTの記事を読むより前に、私はPatientLikeMeサイトから自分のプロファイルを消去することを決意したのだ。何よりも私には、それが心気症患者たちのバーチャル・テーマパークのように見えたのだ。

症状を追跡し情報を入力することは、時間を費消し退屈なことだ。私は自分自身でその関心を維持できなかっただけだ。だが、もしも私が「脱落」するとしたら、コミュニティのために私のデータ入力を維持するように、注意するメールが届くのがお決まりだった。それにともなう腹立たしさは、かんべんしてほしいものだ。私は患者でいるのが嫌なんだ。これまでその名前を好きだったことは一度もないのだ。(LETTERS; Practicing Patients, April 6, 2008, NYT Magazine)

無論、この元メンバーの最後の言葉は「PatientLikeMe」という名称に対する皮肉だ。これらの「燃え尽き症候群患者」まで生み出す患者SNSが、一方では、「最も成功した患者コミュニティ」と称賛されている。このあたりをどう考えていくか。患者SNSは困難な課題に直面している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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