アイデンティティの分散と集中、そして新しいサービス

最近のウェブ闘病記は当然ブログが中心になっているのだが、それらブログ闘病サイトを注意深く見ていると、一人の闘病者が複数のブログを所有しているケースが多いことに気づく。これには大きく、「A→B→C」とブログホスティングサービスを乗り換えていきながら過去ブログを残存させるケースと、同時に複数のブログを運営するケースとがあるようだ。ホスティングサービスを変えるのは、そのブログに使いたい機能がサポートされていなかったり、デザイン・テンプレートが貧弱である場合などが理由であるが、これまで書きためたコンテンツを持って「引っ越し」するよりは、これまでのコンテンツ資産を置いたまま、「身一つ」で新しいブログへ移るケースが圧倒的に多い。

かくしてウェブ上に同一人物が描いた複数の闘病コンテンツが、あちこちに散在することになる。「ブログはネット上の自分の分身である」という言い方があるが、これはブログの本質をよくとらえている。それは、ブログがネットにおける個人のアイデンティティになり得るという事実を語っている。だが、多くの闘病ブログの「複数化」を見ていると、ここへきて「アイデンティティの分散」という事態が生起しているのではないかと思うのだ。

今日、たまたまTechCrunchで、マイケル・アーリントンが次のように書いているのを目にした。

今やわれわれが発表したいものを考えつく限りのあらゆるフォーマットで発表できるサービスが存在する。そこで、こうしてばらばらに、相互に孤立してオンライン上に発表されたコンテンツを単一のアイデンティティーの元に統合するオープンな標準と、そうした標準に基づくサービスが生まれることが今後どうしても必要となってくる。私が個人の集中化(Centralized Me)と呼んでいるものだ。これが強く必要とされるのは、われわれが公開するコンテンツは現在ネット上の四方八方にばらばらになっているからだ。しかも、オンラインサービスの大手企業はよほど強い圧力を受けないかぎり、コミュニティにとって「正しいこと」をしそうにない。〔個人の集中化は〕 一見地味なサービスに見えるだろうが、非常に重要な要素なのだ。(「 明日のソーシャル・メディアは単なるコンテンツのまき散らしの拡大ではない―と、希望」

ここでマイケル・アーリントンは、闘病サイトの複数化などに表れている「アイデンティティの分散化」に対し、再びそれらを統合する必要を指摘し、「個人の集中化」という方向性を示唆している。しかしそのことは、単に複数化や分散化を否定し、「単一の中心」へ向け再び集中化をはかることではない。むしろ分散したままで、必要に応じてアイデンティティを統合するような、そんなオープンなサービスが出現することが語られているのだ。

たとえば個人の医療情報を考えてみると、それらは病院、診療所、検査機関、保健機関、保険団体などに分散している。そして日本では、これらを相互に繋ぐネットワークは不在であり、「分散によるコストと無駄」が日本の医業パフォーマンスの足を引っ張っていることは疑いない。昨年から米国に登場した大規模PHRは、これら多方面に分散している個人医療情報を、ネット上に統合し個人の医療アイデンティティを再構築するものである。これらがうまくワークすれば、国民医療システム全体のコスト改善が図られ、なおかつ個人医療情報が個人アイデンティティのもとへ復元されることになる。

だがこれも、「集中と分散」が同時に存在する必要があると思う。つまり固定化され制度化されたた「中央」とか「中心」があるのではなく、テンポラリーなアイデンティティが必要に応じてその都度どこにでも「編成される」、あるいは「起ちあがる」ような、そんなイメージになるのではないだろうか。そして、このように分散したアイデンティティを瞬時に集中させるには、新しいサービスが必要になる。

ブログの複数化のみならず、写真共有サイト、スライド共有サイト、映像共有サイト、ドキュメント共有サービスなど、われわれはネット上でますます多くの複数のサービスを使用して、自らのコンテンツをあちこちで制作し分散保有している。そろそろ、これらを統合するサービスが望まれているのは間違いない。これを、闘病者の闘病活動シーンにおいて考えると、いったい何が見えるだろうか?。きっとそこには、「データのポータビリティ」に基づく、次代の新しい医療サービスが見えてくるはずなのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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