なぜ、レガシー調査の調査結果は退屈なのか?

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新宿御苑を散策すると、秋はまだあちこちに残っていた。冬枯れのきざしと秋の名残の深い紅葉が交じり合い、小春日和の中で微妙なハーモニーを奏でていた。歩く影は、ますます長い。

先のエントリで、レガシー調査が回答者に「退屈」を強いるものであることに触れた。そしてその退屈さは、回答者だけが回答プロセスにおいて感じるものではない。それよりも一層深刻なことは、調査結果がそれに輪をかけて退屈であるということだ。「わかりきったこと」をわざわざ調査結果として言い立てることの退屈さと虚しさは、「調査というものはそんなものだ」という諦めにも似たつぶやきによって、なんとか無理やり我慢をしなければならないものであった。

調査結果に、何も新しい知見も驚きも発見もないとしたら、一体、その調査をやる意味とはなんだろう?最初からわかりきったこと、誰もが常識的に予測できたことを、なぜあらためて調査する必要があろうか?

それに対し、「わかりきったことでも、それを調査で検証し確認することに意味がある」というのが従来の決まり文句であり、これはまことに重宝なフレーズであったので、当方などもよく利用したものだ。だが、これもよく考えてみると変な話である。わかりきったことを検証するのはタダではない。時間も費用もかかる。要するに、それらコストを負担してまで「わかりきったこと」を検証することが果たして必要かどうか、ということの検証が欠落しているからだ。

だがそのような問いを立てることもなく、わかりきったことを「調査結果」の名のもと、大声で言い立てることに、誰も疑問さえいだいてこなかったのである。かくして、「調査結果」と称する、わかりきったゴミのような情報が、メディアに、ウェブに、社会にあふれることになった。

ではレガシー調査は、なぜわかりきった退屈な調査結果しか出力できないのだろうか。それは調査設計の段階に問題があるからだ。否、「調査設計」というような文字通り設計主義的な考え方自体に問題があるというべきかも知れない。調査における設問フローやインタビューフローを設計することの内に、すでに現実を「ここからここまで」というふうに切り取ってしまうような、合理的な一定のフレームが準備されてしまう。

ところが実際の消費者ニーズや購買行動などは、突発的、非合理的かつスポンテニアスに発生するものであり、それらの全体はいかなる特定の合理的フレームによっても、あらかじめ切り取ることはできない。「道を歩いていたら偶然うどん屋があり、釜揚げうどんを食べたくなった」というように、現実に発生ベースで出現するコト、あるいは創発(emergence)するコトというものは、絶えず調査フレームの外部に生起する。レガシー調査でそれを可視化することはできないのである。

たとえば「スティーブ・ジョブズはマーケティング・リサーチをしない」とか「マーケット・リサーチでイノベーションは起こせない」と言われているのも、このためである。そして、レガシー調査の設計主義的な調査思想は、実際には、無意識のうちに用意された「調査実施者が見たい現実」が「調査結果」として出力されるような、そのようなメカニズムを作動させてしまうのだ。当然、ここには意外性も、驚きも、発見も、何もない。ただ「わかりきったこと」が数値化され、もっともらしい顔をしているだけだ。だから退屈なのだ。

だが本来は、従来われわれが想ってもいなかったような事実を発見するために調査は実施されるはずなのだ。その意味ではレガシー調査は、いつのまにか調査本来の目的を逸脱し、「調査のための調査」という自己目的化の陥穽へ突き進んでしまったのかもしれない。

前のエントリでも触れたが、レガシー調査は設計主義的な調査思想のもとに、特定の調査対象者に強制的にデータを発生させてデータを収集する仕組みである。考えて見ればかなり強引で極端な方法だが、これまでこれ以外にデータを集める方法がなかったのである。しかし、今や消費者の声はネットに溢れている。膨大な消費者が生成したデータがネット上に日々蓄積され、今や”Data is everywhere”なのであり、すでにデータの稀少価値というものはなくなってしまったのだ。それと同時に、レガシー調査だけに頼る時代も終わりはじめている。

患者は医師にホンネを言わない。

患者はレガシー調査でホンネを言わない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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