リスニング・リサーチの決定版教科書とも言うべきステファン・ラパポートの“Listen First !”だが、やっと日本語訳の来年三月出版が決まったようだ。まだまだ日本では「リスニング」ということの認知が低いが、来年からこの本をはじめとして広く知られるようになるだろう。
というか当方など、この夏からあちこちでいわばリスニングの啓蒙プレゼンをやっているようなものだが、この「リスニング」という言葉に対する反応は、意外感はあっても納得感にはまだ遠いというのが現状だ。どうやらレガシー調査のフレーミングを脱するには、今少し時間がかかりそうだ。
dimensionsは日本で初の患者の生声を傾聴するためのリスニング・プラットフォームであるが、プラットフォームと呼ぶにはまだその最小限の機能を実装したにとどまる。むしろ現状は「患者体験のデータベース」と言う方が近いだろう。データベースだからとにかく全文検索機能がなければ話にならない。dimensionsはこれに医療分野キイワードごとのデータリスト出力機能を備えている。
TOBYOの発想というのは、基本的に病名空間にウェブ上の闘病サイトをプロットすることだったが、これを引き継ぎdimensionsでは、病名空間上にプロットされたデータをさらに薬品、医療機関、治療法、検査・機器など各次元を構成する固有名詞で分類している。これらにセンチメント(感情)の分類が加えられて時間軸上に配列され、やがてウェブに公開されたすべての闘病体験の全体像とその傾向を把握することができるようになる。過去から現在まで、日本の患者の生声を聴くことができるようになる。
そんなふうに考えると、dimensionsは当初私たちが考えていたよりもずっと大きな広がりを持つプロジェクトなのかもしれない。最終的には「リスニング」だけに収まるものではないかもしれないが、まずはリスニングだ。デビッド・ワインバーガーが言ったように、今や市場とは会話のことなのだから。
三宅 啓 INITIATIVE INC.