調査とマーケティング: 医療消費者ニーズをめぐって

先週エントリ「慢性疾患患者は健常者に比べインターネットへのアクセスは少ない?」だが、このような調査が日本でも実施される必要がある。日本では、医療分野におけるインターネットの消費者利用実態についてまとまった調査報告を見たことがない。当然ながら、米国Pewのように時系列で消費者のインターネット医療情報利用実態を追いかけるような調査もない。たまに、インターネット利用実態全体の中で医療関連トピックスが取り上げられるのを目にするが、ともかく圧倒的なデータ不足は否めない。

米国では今回のPew調査の意外な結果に様々な反響が起こっているが、よく考えてみると、医療機関に通院し医師のコントロール下で治療を継続している慢性疾患患者は、概してインターネットで情報探索を今以上におこなう差し迫った必要性はないのかもしれない。本当はもう少し他のデータを見ないと何とも言えないのだが、慢性疾患の治療を受けている一患者の立場からしてみると、なんとなく今回の調査結果の意味するところがわかるような気がする。

私たちはTOBYOプロジェクトを通じて、ネット上で自発的に体験を配信している闘病サイトを見続けてきたのだが、これら配信されている闘病体験は日本人全体の闘病体験の氷山の一角に過ぎないのもまた事実である。常識的に見てネットで自分の体験を公開している人たちは、闘病者の中でもかなりアクティブな人たちであることは想像できる。だが、水面下にある膨大な量の体験の実態は知るよしもないのである。一般的なインターネット利用調査などから見て、これらの人々もまずネットで医療情報収集をおこなっていると推測されるが、アクセス頻度などその微細な実態はわからない。

私たちが多数の闘病サイトを見る中で蓄積された暗黙知からすると、闘病者におけるネットのヘビーユーザー層とライトユーザー層はかなり明確に区分されるような気がする。それは健常者よりも一層顕著なのではないか。そして両者の医療情報探索における活動の量と深さは、かなり差があると思われる。無論、現状は残念ながら圧倒的に「ライトユーザー層 > ヘビーユーザー層」であると推測される。たとえば患者SNSやコミュニティだが、これは現状では少数のヘビーユーザー層を対象としなければならないという困難を負っている。また仮にライトユーザー層を会員獲得したとしても、その活動量は少ないので、コミュニティ全体のコンテンツ生産は低調のまま推移するのではないか。医療分野のSNSなどコミュニティほど精緻なターゲット戦略が必要なのだ。そしてこのことを熟知し、卓越したターゲット戦略で成功したのがPatientsLikeMeだと言えるだろう。

いずれにせよこれらの実態を把握するための調査データが必要である。「健康と医療」に対する消費者ニーズは普遍的で膨大な量を有すると誰しも考える。だがこの「普遍的な大量ニーズ」の実態は多分に潜在的であり、特にネット情報活動ではまだ十分には顕在化されていないと考えたほうがよいだろう。だからPatientsLikeMeは「一般的な医療ニーズ」ではなく、顕在化の可能性が大きいニーズとして難病患者ニーズに着目したのだ。

また言うまでもなく、特に患者ニーズというものを考えてみると、それは一般的な医療に対するものではなく「私のこの病気」に特化した個別性を強く帯びているはずだ。つまり医療ニーズとは言っても、その実態は微小に細分化されているのだ。この個別性と細分化にどう対応するかが、インターネット医療情報サービスの肝となるだろう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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