ヘルスケアとシックケア

healthcare

「われわれは本当はヘルスケア・システムを持っていない。われわれが持っているのはシックケア・システムだ」。先週、米国で開催された「”岐路に立つ慢性疾患ケア”サミット」におけるCMS前長官マーク・マクレラン氏のこんな発言を目にしたが、ここで使われた「シックケア」という言葉が妙に新鮮で印象に残った。

この発言の意味するところは、現在の米国医療システムが急性病治療にフォーカスしており、予防医療やウエルネス(健康維持)までは十分にカバーし切れていないという事実である。つまり、シックケアという急性病治療中心の狭いカバーエリアが米国医療の現実であり、より広い本来のヘルスケアと呼ぶには不十分であるというわけだ。

このヘルスケアとシックケアの区別はまた、国民保健システム全体の制度設計をめぐる議論に直結するだろうが、とりあえずこれを医療情報提供サービスの観点から見るとどうなるだろうか?。単純にいえば、提供すべき医療情報が二種類存在するということになる。シックケア情報とヘルスケア情報である。

従来のインターネットを利用した医療情報提供を概観すれば、この二つの医療情報の差異についての認識が欠落しており、ユーザーニーズとのマッチングに配慮を欠いていたと言わざるをえない。たとえば「健康と医療」というサイトコンセプトが設定されるとして、これまではシックケア情報とヘルスケア情報とその対応ニーズが吟味されず、大雑把に提供情報が振り分けられているケースが多かった。その結果、一応、医療系サイトの体裁はあるとしても、実は誰のニーズにもフィットしないサイトが出来上がってしまう。

そもそも「健康と医療」などというコンセプトメイキング自体が雑駁過ぎるのであるから、まず「シックケア対応サイトか、ヘルスケア対応サイトか」を明確にすべきなのだろう。ところでこの二つの医療情報を比較してみると、次のような対比が可能。

  • シックケア情報:
    非常時、専門的、特定疾病、現時点での問題解決、シリアス
  • ヘルスケア情報:
    平時、啓蒙的、一般的リスク、将来への備え、ヘルシー

従来、Web上の医療サイトではこの二つの医療情報は、明確に区別されていなかったものの、どちらかといえばヘルスケア情報の方に傾斜していたのではないか。上の対比表を見てもわかるように、一般的にヘルスケア情報のほうが扱いやすく容易にコンテンツ化できるだろう。

そのためか、医療情報提供サイトでは雑誌ライクな「ヘルシー情報記事」が氾濫することになった。ダイエット、運動、フード、サプリメントなどを中心に、若い女性ユーザー層を想定した読みやすく明るいイメージのコラムがどこのサイトでも見られることになった。だが、これならリアルの雑誌で得られる類の情報であり、インターネットらしい特徴を活かした情報提供とはいえないだろう。とにかく、似たり寄ったりの同質化に食傷気味なのだ

一方、シックケア情報の方だが、こちらは一言でいえば「地味」なコンテンツが多い。結局、医療百科事典のようなものになってしまうようだ。それもWikipediaのような随時更新性で最新情報を提供するならまだしも、紙の百科事典のように情報が古いまま固着したケースが多い。情報が新鮮でニュース性があるからユーザーの興味関心を喚起できるのだが、まだこのシックケア情報の分野ではそのようなユーザー志向のコンテンツ開発は、圧倒的に遅れている。

このように従来のWeb医療情報提供サービスは、ヘルスケア情報もシックケア情報も、どちらもユーザーのニーズに応えきれておらず中途半端に掲出されてきた。これまでWeb医療情報提供サービスが不振をかこってきた原因として、このような情報類型判別とユーザーニーズ対応の中途半端さがあったものと考える。

これらを打破するためには、まずヘルスケア情報では雑誌記事ライクなコンテンツ掲出をやめることが、またシックケア情報では無味乾燥な専門情報の羅列をやめることが必要だ。
そして大胆にユーザー参加型構造をどうサイトにビルトインするかが、今後のWeb医療情報提供サービスのキイファクターになるだろう。

闘病記はユーザー生成型シックケア情報である。われわれがTOBYOで闘病記に着目しているのも、それが従来のWeb医療情報提供サービスの殻を破り、新しいサービスモデルを生み出すと考えているからだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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