慢性疾患患者は健常者に比べインターネットへのアクセスは少ない?

PewInternet

3月24日、米国で発表されたインターネット医療に関する調査報告書「Chronic Disease and the Internet」が米国インターネット医療関係者に波紋を投じている。この調査は、ここ数年、米国で最も積極的にインターネットと医療に関する諸相を調査し問題提起してきたPew Internetが、California HealthCare Foundation の協力を得て実施したものだが、以下のように意外な結果となった。

  • 慢性疾患を持っていない米国成人の81%がインターネットにアクセスしている。
  • 慢性疾患を持つ米国成人では62%がインターネットにアクセスしている。

さらに、複数の慢性疾患を持つ者ほどインターネットへのアクセスは少なくなっている。

  • 一つの慢性疾患を持つ成人の68%がインターネットにアクセスしている
  • 二つ以上の慢性疾患を持つ成人では52%がインターネットにアクセスしている

上の二つの結果を合わせると、二つ以上慢性疾患を持っている成人は、慢性疾患を持っていない成人よりも、インターネットへのアクセス率はなんと約30%も低いことになる。これはたしかに衝撃的な結果だ。普通に考えてみれば、慢性疾患を持つ者の方がより医療情報ニーズは高く、インターネットへのアクセスも多いはずだからだ。

これら結果の理由として、同報告書では「統計的に見て慢性疾患患者は高齢者が多く、アフロ・アメリカンが多く、教育水準は低く、低所得層が多い。逆に一般的なインターネット・ユーザー層は若く、白人で、カレッジ卒で高所得層が多いと考えられる」として、これら慢性疾患に関連するデモグラフィック要因の違いをあげている。しかし同時にこの説明と明らかに矛盾するのだが、これらデモグラフィック要因の影響を調整した場合でも、「慢性疾患」は独立した変数であると説明されている。つまり「慢性疾患」は他のデモグラフィック要因に関係なく、インターネット・アクセス状況に影響を持つ要因だとしているのだ。

また、インターネットでの医療情報利用状況だが、以下のような結果になっている。

  • 慢性疾患を持たない成人の66%がインターネットの医療情報を利用している
  • 慢性疾患を持つ成人の51%がインターネットの医療情報を利用している

ここでも、慢性疾患を持つ者と持たない者の間にかなりの差異が見られる。そしてそれも、ふつう考えられていることとは逆の結果になっている。さらに同報告書では、慢性疾患患者ほど医療者、家族・友人、書籍などオフライン・ソースへの依存度が高いとしている。

これらの調査結果に対し、早速、e-patients.netなどから失望と反論の声があがっている。ここ数年、消費者調査から米国インターネット医療シーンを牽引してきたスザンナ・フォックス率いるPewInternetの調査報告であるだけに、なおさら反響は大きいようだ。

さてこの調査結果をどう見るべきかだが、通常私たちがともすれば予断を持って語ってきた「インターネット医療」というイシューを冷静に見つめ直し、その現実を剔抉するよいチャンスではないだろうか。ある意味で常套句化し、当たり前のこととして誰も異論を唱えにくいような、そんなインターネットと医療をめぐる現状認識や言説から一歩外へ出て、現実をこれまでとは違う観点から見てみるのも悪くはない。日頃、当方なども何となく感じていながら、それでいてなかなか言葉に表せずにいた事々を、突然目前にひょいと投げ出されたような気がしている。

たとえば、ネット上の患者SNSの大半が失敗しているのはなぜなのか。このようなことを事実から検証するヒントが今回の調査の中にはある。この調査報告書は首尾一貫性が欠落し、ある意味で矛盾の固まりとも言えるが、それでも医療とインターネットをめぐる「現実」の一端は確実に捉えている。そのことはいずれまた改めて考えてみたい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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