英国Dipexサイト「healthtalkonline」

ご報告が遅れたが、5月8日付け毎日新聞「関心高まる闘病記:下 先輩患者の知恵、ネットに」にTOBYOが紹介された。実はこのブログで紹介するかどうか、少し迷った。というのは、また例によって「Dipex Japan」という団体の紹介がメインで、記事の半分強を占め、TOBYOやライフパレットは「刺身のつま」みたいな扱いでお茶を濁されていたからだ。まだ実際に何のサービスも開始していないにもかかわらず、なぜだか毎日新聞はじめマスメディアはこの団体にご執心である。

だが、以前から疑問だったのは、オックスフォード大学から始まったとされるこのDipexが、Health2.0など海外の新しい医療シーンでは、まったく話題にも上がっていない点だ。私は2005年くらいから、海外の新しい医療ITの動向をウォッチしてきたつもりだが、この「Dipex」関連のトピックスやニュースに触れたことは一度もなかったのである。だが、当方の見落としということも当然あるだろう。というわけで「Dipex」の本家本元の英国サイト「healthtalkonline.org」を調べてみた。

トップページを見て思ったのは、なんだかひっそりとしたサイトだなという印象。しかも動作が遅く、検索など試してみると非常に重い。やはり映像コンテンツが負担になっているのか。しかしDipex関係者によれば、このサイトは「月間200万件のアクセス」があるという。(『患者体験』を映像と音声で伝える~『健康と病いの語り』データベース(DIPEx)の理念と実践」情報管理 Vol.51 No.5. 2008年)。そこで、まずトラフィックデータをalexaで調べてみた。結果は下記のとおり。

●世界ランキング:1,637,275位  ●英国ランキング:128,097位

なんだかやけに低ランクである。間違いかと思い何度も試したが、この順位で間違いない。これらのデータをもとに試算したこのサイトのアクセス状況だが、次のとおりである。

●月間アクセス数:約1万件 ●月間ページビュー:約4万

●月間ユニークユーザー数:約6千

無論これはあくまで試算であり傾向値に過ぎないが、もしもこのサイトが消費者向けサービスのサイトであるとすると、これは悲惨な状態であると言わなければならない。ちなみに当方のTOBYOだが、闘病サイト収集や検索エンジンに優先注力してきて、正直なところアクセス状態はまだまだである。この春からジワジワとアップしてきているが、これから本格的に取り組まなければならない。しかし、それでもこの英国Dipexサイトよりは、ずっと良いパフォーマンスを叩き出している。では、このサイトの悲惨な状態をどう考えるべきなのか。

おそらく、主として少数の医療者や研究者がこのサイトのメインユーザーであり、一般の患者や消費者からは、ほとんど利用されていないのが現状であると解釈すべきだろう。戸塚洋二氏のDipexに対する考察にも、「このデータベースの意図しているところは、患者の心理的な側面を映像・音声を通して獲得し、上にも書きましたが、それを患者ではなく、むしろ医療関係者に利用してもらい、患者との対応の改善につなげたい、と理解しました」とある。

またこれら「映像データベース」が、はたして患者や消費者のニーズにフィットするかと言えば、大いに疑問だ。一般の患者や消費者をほとんど集客できていないから、この英国Dipexサイトは悲惨なアクセス状態になっているのであり、その最大の理由は、これら「映像データベース」が患者や消費者のニーズに合っていないからだと見るべきだ。

となれば、むしろこのサイトを「医療者、研究者を対象とした研究、教育活動のためのサイト」とでも限定定義してしまえば問題はないはずだ。それを、無理に一般の患者・消費者まで対象とするから誤解が生じる。毎日新聞をはじめ日本のマスコミは、これらの問題を整理熟考することなく、一緒くたに論じて来たのである。そこが一番問題だ。

自分の目で事実を見て、自分の頭で考えること。これがジャーナリズムのプロフェッショナリズムではないのか。「自分の目で事実を見る力」とは取材・調査能力のことであり、「自分の頭で考える力」とは強靭な批判精神のことを指すはずだ。ところが最近では、どうやら取材・調査能力は劣化し、批判精神は衰微してしまったようだ。「オックスフォード」というブランドや「大学のセンセー」という権威に無批判に追従し、「事実」を追求することなく、自動化した知覚でクリシェ(決まり文句)を量産する。そのような「サラリーマン・ジャーナリズム」は、耐えがたいほど退屈だ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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