闘病者の知識と体験をどう活かすか

autumn08

なんだかんだと言っているうちに2008年も12月である。これからやらなければならない仕事が多すぎて、「今年はこうだった」などと回顧するにはまだ早すぎる。春先からどっと仕事が押し寄せ、気がつけば秋も深くなっていたような、そんな味もそっけもない一年であった。だが一方、ひたすら闘病サイトに多数接してきて、そこから多くのことを学ぶことができたのは幸いであった。TOBYOのコンセプトやビジョンを、どんどん豊富化し修正していくことができたのも、それら闘病サイトから膨大な暗黙知を学び取ることができたからだ。

マーケティングの世界では「市場のことは市場に聞け」という格言がある。机の上であーだこーだと何時間も議論するよりは、売り場へ足を運び、そこでどんな客がどんな様子で商品を選択しているかを実際に目で確かめるところから出発すべきだという戒めの言葉である。その意味では「闘病サイトのことは闘病サイトに聞け」ということになる。1万件以上の闘病サイトに接してみると、インターネットという空間に、まったく新しい可能性を持った闘病者の活動と成果物が次々に生み出されていることを実感できたのである。

従来の医療界は、これら新しい活動と成果物を無視してきたし、このままでは今後も無視し続けるだろう。だが今後の医療は、闘病者がネット上で生成しつつある医療についての知識と体験と何らかの形で連携していくような、そんなダイナミックな「参加性」に基づく医療へ変わっていくべきだと考える。歯の浮くような「患者様中心医療」などスローガンを空しく連呼するのではなく、これからの医療は、ネット上に闘病者が生成した膨大な知識と体験のリソースを、積極的に活かすような方向へ転じるべきだろう。そのための一端をTOBYOが担うことができたらと願うのである。

TOBYOはネット上で展開されてきた闘病者の活動と成果物を可視化する。これは、以前から何度も繰り返してきたことだ。そして次に、TOBYOはネット上に蓄積された膨大な闘病者の知識と体験のドキュメントを、医療界と医療関連業界が利用しやすい形で提供することを考えている。検索エンジン「TOBYO事典」は、もちろん第一にユーザーが無料で自由に使えることを目指している。その上で、たとえば医療機関や製薬・機器メーカーなど向けに、マーケティングのカスタムレポートのようなものを出力し提供したいと考えている。医療を取り巻くすべてのステークホルダーが、消費者参加型医療へと医療を実践的に変えていくために、まずこのような形で、闘病ネットワーク圏の知識と体験の豊かなリソースをフルに活用できるようにしなければならない。

医療を変えるということは、単に「患者とお医者が仲良しになれば良い」というような、あるいは「患者が病院の応援団になろう」みたいな、そんな幼稚な話ではない。あらゆる産業においてそうであるように、医療においてもサービスの受け手と提供者は、必ずある一定の緊張を持った関係に立ち、相互に向き合わざるをえない。できればその緊張は度を越したものでなく健全なものであってほしいが、他方、そのような緊張こそが双方とその関係を進化させる要因でもあるはずだ。

とは言え、互いに相手を理解するための手がかりが必要であることは間違いない。それも単にスローガンやきれいごとの投げ合いではなく、実践的な理解でなくてはならない。闘病ネットワーク圏には、闘病者の実践的な知識と体験が手つかずのままに蓄積されている。これらの情報はまず、闘病者の闘病活動のために活用されるべきだ。次にTOBYOは、これら闘病者の生きた知識と体験を、何らかの形で医療界や医療関連業界が実践的に理解し活用できるように提供したいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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