Health2.0のマーケティング: Engage & Empower

前回のエントリで「Health2.0マーケティング」ということを述べた。変な言い方になるが、「今まで言おうとして、言い得なかったポイント」にようやくたどり着いたような気がしている。たしかにHealth2.0は、たとえば、闘病者がインターネットで医療情報を入手する方法を変えつつある。だがそれら闘病者の新しい行動を支援し維持していくためには、ビジネス基盤が創出されねばならない。

とりわけ日本の医療の場合、長年にわたり国家が計画し実行するという計画経済主義の医療制度が機能してきたために、各プレイヤーに新しい市場を開発してビジネス基盤を創造するという発想は弱かった。しかもこの計画経済主義は、しばしば誤った計画を実行してきてしまった。たとえば、ここ数年来指摘されてきた「医療崩壊」の大きな原因とされる医師不足問題だが、単純に言ってしまえば、計画立案時に医療の将来需給予測、特に医師需給予測を見誤ったということだ。そして計画し実行する権限は手放さないが、その結果の責任だけは絶対に取ろうとしない硬直した官僚制の問題であるはずだ。

かつて18歳人口の長期予測を誤り、少子化を予測できずに大学設立を大盤振る舞いで認めた文部省の例が記憶に浮かぶが、役人が長期需給予測などをやるとろくなことはない。そしてこれら誤った需給予測に基づく計画経済は、医師不足に見られるように、必ず悲惨な結果を消費者に強いることになるのだ。しかも責任は取らないのだから、こんなデタラメな話はない。そもそも、「将来の正確な需給予測」などが可能だと思うこと自体が間違いだ。

さてHealth2.0だが、日本の場合、硬直した国民医療経済制度の内部に活動できる余地は少ない。そうかと言って、国民医療制度周辺に活力のある市場が存在するとも思えない。「どうして日本ではインターネットを活用した医療サービスが登場してこないのか、成功しないのか」という質問は、これまで当方が耳タコもので何度も訊かれてきた質問だ。その都度あやふやに説明してきたが、結局、計画主義医療制度に消費者の新しい医療ニーズを対置し、医療にまつわる従来の発想や行動の様式を破壊し乗り越えるような「蛮勇」とチャレンジが、ビジネスサイドに足りなかったのではないか。お行儀が良過ぎたのではないか。そして、やはり新しいマーケティングが重要だ。コトラーなど20世紀のメインストリームではなく、新しい2.0的事象に対応できるマーケティングが必要だ。

かつて1980年代の後半に、アンラーニング(Unlearning)という言葉がマーケティング界で盛んに使われた時期があった。その背景には、当時、大衆消費社会の大きな変換点にあって、従来のマーケティング体験や知識を積極的に忘却することが必要だという認識があったのだ。今、Health2.0を語るとき、そのマーケティングが重要だという地点にようやく辿りついたのだが、それは、20世紀マーケティングを再び「アンラーニング」した上で構想し獲得されるものだろう。すなわち消費者に命令し統制する「Command & Control」型マーケティングを積極的に忘却し、「Engage & Empower」のマーケティングを新たに生み出すことである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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