動き出した大規模PHR: Dossia

Dossia_top

昨日エントリで「二位三位連合」の追い上げに直面するWebMDの状況に触れたが、そう言えばWebMDは、大規模PHRであるあのDossiaコンソーシアムと提携を結んでいることを思い出した。Dossiaについてはこれまで何回も取り上げてきたが、Intel、ATT、Wal-Martをはじめ巨大企業が共同出資して立ち上げたPHRコンソーシアムである。これまでいろいろ紆余曲折を経てきたが、いよいよ本格稼働することが先月末にアナウンスされた。

まず最初に、Wal-Martの従業員を対象としてPHRサービスが開始されるが、これはWebMDのPHRインターフェースを介して提供される。WebMDとしては労せずして巨大企業従業員からの大量のアクセスを稼ぎ、その上PHRポータルの経験まで積むことができるわけで、まさに「濡れ手に粟」である。また、医療分野におけるマーケティングプラットフォームと目されるPHR分野に参画しておくことは、今後、二位三位連合に対する競争戦略上大きな意味を持つはずだ。

ちなみに、現在、Dossiaコンソーシアムに参加している企業だが、以下のような顔ぶれである。

ATT、Applied Materials、BP、CardinalHealth、Intel、Pitney Bowes、sanofi aventis、Wal-Mart

参加各企業はそれぞれ年間150万ドルの運営費を支払い、実際の運営は非営利団体のDossiaコンソーシアムがあたることになる。運営組織を企業から独立させ非営利化させることによって、Dossiaはシステムに対する従業員の信頼感を獲得しようとしているわけだ。しかしまだ不透明な部分も多く残している。たとえば従業員が企業をやめた場合、データを円滑に引き渡すことができるのかという問題や、本当にシステムの企業からの独立性は保たれるのかという問題である。特に雇用者側が従業員の個人医療情報を使う可能性が指摘されており、従業員の待遇や雇用自体への影響が強く懸念されているのである。また、「なぜ、そもそも言いだしっぺであるはずのIntelではなく、Wol-Martが最初に導入するのか」という疑問までブロゴスフィアでは出されている。

ところでこのDossiaは、2年前に大規模PHRとして最初に名乗りを上げたのだが、Google HealthやHealth Vaultと大きく違う点は、それが「企業(雇用者)による自社従業員対象のサービス」であるという点だ。つまり企業の福利厚生施策みたいな側面があり、またそのシステム運営体制などは、日本の健保組合に似たところもあるように感じられる。日本でも今後、大規模PHRの模索は始まるのだろうが、たとえば健保組合が運営主体となる可能性もあるだろう。その際に、Dossiaがそのモデルとなることが考えられる。だが、日本の健保組合の財政状態を見ていると、とてもそんな余裕はないのかもしれない。

いずれにせよ、これからの中核的な医療情報システムになるであろうと考えられる大規模PHR。Dossiaを皮切りとして、いよいよ実際に運用が開始される。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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