日本のHealth2.0シーン

新宿御苑でやっとミンミン蝉が元気に鳴き始めた。今年は蝉の鳴き始めが遅いような気がする。ともあれ盛夏到来である。思えば二月にTOBYOアルファ版を公開してから、早くも半年が経過しようとしている。立ち止まってゆっくり考える間もなく、春先から突っ走って来たわけだが、まだ当分はこのまま進むしかない。やらなければならないことは山積しているが、とりあえず現時点で当方が考えていることをいくつかメモっておこう。

まず、「日本のHealth2.0」ということで言えば、TOBYOをはじめ春先からいくつかスタートアップ企業がサイトデビューを果たし、従来にない動きが日本の医療情報サービス分野にもたらされたと言えるだろう。だが、それらはまだ少数にとどまる。それに、まさかわれわれがこのブログなどで、UGCやUGMとしてのウェブ闘病記の意義を主張してきたせいでもあるまいが、奇しくもこれらスタートアップは多かれ少なかれ「ウェブ闘病記」に焦点を合わせている。つまりプレイヤーが少数でありながら、特定テーマへの収斂が起きているわけで、これはあまり健全な状態とは言えないだろう。

もっと多彩で多様なサービス開発がされるべきなのだ。たとえば患者SNSだが、米国ではかなりの数が登場しているが日本ではどうだろうか。たとえば日本のスタートアップ企業の中で、春先の段階で「ここは、おそらく患者SNSを展開するのだろうな」と見ていた某社だが、その後、意外にも闘病記アーカイブへ転じたようである。どのような方向を選択するのも自由だが、こうなると、どこかよそから本格的に患者SNSを展開するところが出てきてほしい。日本の患者SNS市場は、がら空き状態である。

ところで繰り返しになるが、われわれは「闘病ネットワーク圏」というビジョンのもとに、ツールとしてのTOBYOが果たすべき役割を構想している。新たにコミュニティを作るまでもなく、すでに「闘病ネットワーク圏」という大きなコミュニティが存在しているとの前提に立ってTOBYOを開発している。だがしかし、患者SNSとこの「闘病ネットワーク圏」は両立するはずだ。それは、現に闘病ブログサイトを運営しながら、同時にmixiの闘病コミュニティにも参加している多数の闘病者を見ればわかる。

また、患者SNSを考える際、mixiの医療版のようなものをイメージしてしまってはだめだろう。mixiとの差別化を徹底できなければ、ユーザーに訴求力のあるコミュニティにはならない。先日、TecCrunchがmixiを批判的にレビューしていたが、このあたりは参考になるはずだ。つまり本来のSNSにおいては、闘病記のようなコンテンツを書かせる機能よりも、ユーザー間のコミュニケーション機能のほうがより重要なはずだ。

また、医療機関や医療者のレーティング・サービスも日本では取り組みが遅れている。これはレーティングの元になるデータが公開されていないため、ある意味ではやむをえないとも言える。そのためか、日本では「クチコミ」レーティングが一般的になってしまったが、そろそろここから抜け出ていくべきだろう。米国HCAHPSなどのように、しっかりした統計モデルに基づいた医療評価が出てくれば闘病者に役立つサービスになるはずだ。

また、一方では「患者の語りの映像データベース」というプロジェクトも現在進められている。これはわれわれのTOBYOとも関連のある分野だとも言える。だが、このプロジェクトの持つ方向性を見ていると、厚生科研を原資にするなど、「Health2.0」の動きとはどうやらかなり違うものだ。少なくとも「リスクを取る覚悟」を持ったベンチャーではない。また「日本版PHR」という研究プロジェクトも官庁主体で進められているが、こちらも同様にHealth2.0と接点はないだろう。

さて医療者側だが、「Next Doctors」など医師SNSが順調に軌道に乗り始めている。われわれ医療消費者サービスを開発する者にとっては、将来、これら医療界側の2.0とどのように連携できるかが大きなテーマになるかも知れない。医師SNS側も、将来、医療消費者との直接チャネル等も検討していただきたい。

以上、TOBYOを取り巻く日本の医療情報サービスシーンの現状をメモってみた。もとより、われわれはTOBYOをしっかり開発していくが、できれば「日本のHealth2.0」というビジネス圏域が多様で豊かに発展してほしいと願っている。その意味で、今後も日本の医療ビジネスシーンに対して、どんどん問題提起をしていきたい。もちろん批判、反論は大歓迎である。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


日本のHealth2.0シーン” への2件のコメント

  1.  TOBYOに登録してから約3週間経ちます。
     たった3週間で評価を出すのは差し出がましいのですが、闘病ブログを書いている者からすると、私の場合、現時点では登録したTOBYOからの被リンクによるアクセスもさほどあるわけでもないことから、TOBYO登録のメリットはブログアクセスランキングと比べると何だろうかと思います。
     TOBYOへの登録のメリットは、闘病ブログを書いているほうではなく、闘病ブログを探してたどり着いた方にあるのであれば、書く者、閲覧に来られる方がそのメリットを分かりやすく実感できるような仕組みが欲しいです。

  2. ganfighterさん

    貴重なご意見、感謝します。たいへん参考になりました。

    「闘病記を書いている方々へ、何らかのインセンティブを提供できないものか」ということは、以前からわれわれの宿題でありました。方向性としては顕彰、ポイント制などがありますが、まずTOBYOが備えている「三つ星レーティング」や「登録ユーザー数によるランキング」などを稼働させるのが先決だと考えています。

    TOBYO収録の闘病記件数は7千件を超えて増えていますが、量的確保の次に重要なことは、良質な闘病記を選び出し、推薦し、顕彰することだと思われます。結局、そこまで到達しなければ、書き手にも、闘病情報の探し手にも、本当のメリットを提供することはできないわけです。

    TOBYOの現状は、ご指摘のようにまだまだ満足できる状態ではありません。ひたすら改善に努めていくのみです。今後も、何か具体的な改良点、ヒント、アイデアなどあれば、遠慮なくどんどんご指摘ください。

    ありがとうございました。

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