新知識共有ツールとTOBYO

KNOL0807

Googleは23日、昨年末からテストしていた「KNOL」を正式リリースした。このブログでも概要は紹介済みだが、手短に要約すると「このKnolは特定分野の専門知識を持つプロフェッショナルに、特定テーマの知識・情報を公開発表するためのツールを提供するものである。」となる。発表されて以来、KNOLはWikipediaと競合するツールとして論じられてきたのであるが、正式リリース版をあらためて見ると、意識的にWikipediaとは違う知識共有ツールを目指していることがわかる。

特に、KNOLでは一つのテーマについて複数の書き手の複数のエントリを認めているが、この点は、Wikipediaとまったく異なった知識共有のあり方を示していると言えよう。「A unit of knowledge」というフレーズが語るように、個人が持っている専門的知識をウェブにコントリビュートする「知識単位」という位置づけであり、今のところそれらを無理に束ねて百科事典化するようなそぶりはないのである。もちろんこれら「知識単位」をカテゴライズして配列すれば、たちどころにWikipediaのような百科事典になるのだが。

しかし、この「知識」はいったい誰に向けた、どのようなレベルの知識であるのだろうか。サンプルを見る限り、かなり啓蒙的で一般向けのエントリがほとんどを占めているような気がする。とすれば、先端的な研究分野のエッジを切り出すような論考は、このKNOLには出現しないということか?。いずれにせよその辺りの位置づけが、今一曖昧なような気がする。

ところでサンプルを見ると、医療関係のエントリが多いことにも気づく。GoogleがKNOLの重点分野として医療をイメージしていることが容易に察せられるのだが、闘病者側から見るとどうだろうか。これは昨日のMedPediaにも言えることだが、「医療者が専門医学知識を患者に向けて啓蒙する」という一方的な医療情報フローだけでは、もはや今日の闘病者は満足しないのではないだろうか。

今日の闘病者(患者、家族、友人)は、専門家の医学知識に学ぶだけでなく、実際に他の闘病者に経験された事実を闘病記によって知ろうとしている。つまり彼らの医療情報に対するニーズは、体系的学問的な知識だけではなくて、自分と同じような人々の実際の経験的知や経験的事実までをも含むものなのである。だが、MedpediaもKNOLもこのようなニーズに気づいておらず、ひたすら体系的学問的な知識の提供のみに腐心しているように見える。これでは片手落ちではないか。

たとえばMedPediaに闘病体験データが付加されたらどうだろうか?。たとえば「胃がん治療」に関する最新の医学情報と、その最新治療を実際に体験した人の闘病記が同時に提供されるとしたらどうだろうか。このようなサービスはまだ世界のどこにもないが、もしも実現できれば、闘病者のリアルニーズを十分に満足させる医療情報サービスとなるだろう。

われわれのTOBYOは、今、全国7000の闘病者の闘病体験(闘病記)を可視化できるところまで来ている。これはまだまだ先の話ではあるが、最終的にTOBYOは、MedpediaやKNOLなどの「知識ベース」との一体化を目指さなければならないのかも知れない。

だがあまり先回りしてアイデアを言ってしまうと、またまた真似をしてくる人が出てくるので、この辺でやめておこう。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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