巨大製薬企業と医師SNSの提携

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10月14日付FinancialTimesによれば、ファイザーが医師SNSのSermoと契約を結んだことが明らかになった。

「ファイザーは、Sermoの医師コミュニティや他のSermoパートナーと協力し、コラボレーションを通じ、以下のような主要目的を追求する計画である。

・動きの速いソーシャルメディア環境において、医師と共に、医療情報交換を変革する最良の方法を発見する
・オンライン交流によって提供されるイノベーティブ・チャンネルを通じて、医師とのオープンで透明性のあるディスカッションを創造する
・医療プロフェッショナルとのコミュニケーションにおけるソーシャルメディア利用のためのガイドラインを、FDA(米国食品医薬品局)と連携して明らかにする
・製薬プロフェッショナルとSermoコミュニティの間の生産的な交流開発を、医師と連携して進める」(“Pfizer takes a leaf out of Facebook”,FT.com,October 14 2007)

上記の提携内容だけでは、いったいファイザーが何を具体的にSermoで目指しているかはっきりしない。ただ、従来、製薬メーカーは医師とのコミュニケーションのために膨大な予算とエネルギーを投じており、これはコストの割には効率が悪いと言われている。そのため、今後、医師とのコミュニケーション活動を合理的にコストダウンし、同時にコミュニケーション効果を改善する手法として医師SNSに着目したとみられている。

だが、どの製薬企業も医師SNSをはじめソーシャルメディアにおける活動経験はほとんど無いに等しく、経験を積むための実験ケースという側面も否定できない。最近のソーシャルメディアへの製薬企業の取り組みとしては、Johnson & Johnsonの企業オフィシャルブログ開設が話題になった。

このJonson & Johnsonのオフィシャルブログ開設のケースでも議論を呼んだのは、広告や広報と違い、「コントロールできないコミュニケーション」の場であるソーシャルメディアにおける「リスク」を製薬企業としてどう見るかである。Sermoコミュニティの医師の中には、アンチ製薬企業派と目される医師も少なくなく、ファイザーのSermoへの進出は彼らに絶好の批判の機会をあたえることになる、との見方もある。(The Health Care Blog: Sermo, Pfizer: Big Pharma puts big toe in social networking waters)

一方、FinancialTimesが報じている「他のSermoパートナーと協力し」という点だが、これはすでにSermoと提携を発表している米国医師会そしてFDAのことである。だが、FDAと「ソーシャルメディア利用のためのガイドライン」を明確化するとのことだが、これはどうも意味不明である。何か無理にでっちあげた理由のようなニュアンスがある。

このファイザーとの提携はSermoにとって、非常に大きな成果である。米国医師会、FDA、そしてファイザーをパートナーとして獲得したことは、昨年九月にローンチしたばかりのこのHealth2.0ベンチャー企業の今後にとって、きわめて大きな収穫である。今後、他の大手製薬企業が、続々と提携を申し入れてくることは間違いないといわれている。Health2.0の最初の成功事例となる可能性は強い。

だが、Sermo自身はこの一カ月ばかり、激しい論争の渦中にあった。米国医療界きっての著名ブログサイト”Medgadget”が、Sermoの医師資格認証方法の不十分性を指摘し大論争になったのだ。”Medgadget”によれば、Sermoの現行資格認証方法は公開された医師資格データを使用しているため、誰でも「成りすまし」が可能というものである。これに対し、Health2.0コミュニティからは、「ネガティブな欠陥指摘ではなく、ホワイトハット(善意のセキュリティホール指摘者)の態度をとるべきだ」とのSermo擁護論が多数あらわれ、Sermoはこの場を乗り切ったが、依然として医師資格認証方法に不安は残している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


巨大製薬企業と医師SNSの提携” への1件のコメント

  1. はじめまして。
    HealthVault で検索し、アクセスいたしました。
    HealthVault は期待したいプロジェクトですが、やはり医療機関サイドの色合いが強いことは否めないようにも感じます。
    「闘病記を活用し、みんなの闘病体験を共有」のようなコンピュータでいうところのユーザーサイドからの情報の共有は有効であるように思います。

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