YouTubeで火のついたビデオ共有サービスは、今後、特定分野へテーマを絞ったものが多数登場するものと思われる。その中で生命科学研究コミュニティ向けの学術ビデオ共有サイト“jove”が注目されている。
“jove”は”journal of visualized experiments”の略で、生命科学研究の実験を視覚的に共有するオンライン学術雑誌をめざしている。従来、生命科学の実験成果の共有には、再現性と透明性にボトルネックがあったといわれるが、それを「実験ビデオ論文」という新形式で解決し、さらに学界における研究成果の迅速なコミュニケーション・ツールとしても利用してもらおうという趣旨らしい。
収録ビデオは神経科学、発生生物学、細胞生物学、微生物学、植物生理学のカテゴリーに分かれている。また収録ビデオコンテンツは実験ビデオ論文と、専門研究者のインタービューの二つの形式がある。それぞれのビデオにはレーティング、コメント、タグ、メール配信、リンク&エンベッド共有など、YouTubeでおなじみの共有機能が用意されている。
もちろんビデオ共有サイトのメイン機能であるビデオ投稿も無料で可能。その場合、編集委員会の内容審査が条件となる。
これまでも医学生向けの教育ビデオ配信サイトなどは存在していたのだが、どちらかというとこれらはワンウェイ配信で「共有」というよりは「ブロードキャスト」に近かった。つまり1.0モデルであった。2.0の登場によって、ようやく「共有」という概念の実体的恩恵に浴することができるようになったわけだが、考えて見ればこの「知識情報共有」とは、もともと科学技術研究と親和性が高いものだった。
実験成果を視覚的に伝えることのメリットが特に発揮されるこのケースのような場合、実験ビデオ論文とその共有という、これまでにない新しいジャンルと知識共有の形式が誕生するのである。まさかYouTubeがこのような進化を見せるとは、誰も想像さえ出来なかったのではないか。
このように、2.0のインパクトは予想以上の影響力を持つのであり、医療業界においても、今後まったく新しいサービスが登場することが期待される。
三宅 啓 INITIATIVE INC.