米国最大手HMOがマイクロソフト社Health Vaultを採用

KaiserMHM

10日(火曜)のニューヨークタイムズによれば、米国最大のHMO(保健機構:Health Maintenance Organization)であるカイザーパーマネンテが、マイクロソフト社のPHRであるHealth Vaultを採用しテスト運用を開始する。

当初は、カイザーパーマネンテ従業員15万6千人の個人医療データを使いテスト運用するが、運用が順調であれば、870万人のカイザー会員データをHealth Vault上のPHRにアップし、血圧計や万歩計などモニター装置による付帯サービス提供等を開始する予定。

先月のGoogle Health公開により、いよいよ大規模PHRの競争が本格的に始まったが、競争はまず「有力パートナーの争奪戦」という様相を見せている。ブランド医療機関においては、マイクロソフトがメイヨークリニックを、Googleがクリーブランドクリニックをそれぞれ獲得したが、保健機関の争奪戦においてマイクロソフトが最大手のカイザーを獲得した意味は大きい。実はカイザーは、Googleの医療諮問委員会にアンナ-リサ・シルベスターVPを送りこんでおり、どちらかと言えばGoogle寄りと見られていたのだが、結局、採用しているデータ仕様がHealth Vaultと一緒のCCDであること(GoogleはCCR)、そして「セキュリティ&プライバシー」対策が万全であることを理由に、マイクロソフトが指名されたらしい。

カイザーパーマネンテは「My Health Manager」(上図)という独自のPHRを会員に提供しており、すでに225万人がこれを利用しているが、このデータをHealth Vault側へ転送することになるようだ。個人医療データ入力の容易性が、PHRの大きな課題であることは以前から指摘されていたが、これは自動入力以外に解決方法はない。そうなると個人ユーザーよりも、すでに大量の個人医療データをデジタル化して保有している、医療機関や保険機構などの「団体客」を獲得しなければならないわけだ。

「医療情報フローを全面的に変える破壊的イノベーション」とまで評される大規模PHRだが、いよいよ本格的に動き始めた。しかしこれは米国の話。日本ではどうか。いくつか話は聞いているが、なかなか大変なようだ。だがこのまま米国が先行して実績を積み上げると、またもやGoogleやマイクロソフトに市場支配されてしまうのは目に見えている。

日本では「医療のIT化」などと言われながら、結局、その主たる関心はもっぱら電子カルテやEHRなどに向けられてきた。これらに通底する発想は、医療機関や諸組織が患者の個人医療情報を所有し管理するというものだ。そして各病院ごとにプロプライエタリなシステムが作られ、データの相互互換性もポータビリティもない、おまけに高価なシステムがあちこちに乱立した。だがそんなことをしているうちに、にわかに風向きは変わり、「個人の手元へ医療情報を返す」という、今までとはまったく逆の発想で大規模PHRが生まれた。そうなると、これまで多数作られた電子カルテやEHRは、単なる医療現場のセンサーデバイスに過ぎず、データはそこから「ウェブ上の個人口座」としてのPHRへ集約されることになる。つまりPHRこそが「医療IT化」の戦略高地(Commanding Heights)であることが、次第にはっきりしてきたのだ。

このようなPHRの戦略的重要性を熟知しているから、Google、マイクロソフト、そしてインテル陣営は熾烈な競争を開始している。だが日本のプレイヤーの姿は、どこにも見えない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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  1. ピンバック: 手の届く範囲だけでもなんとかしたい

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