生活者のWeb医療情報利用実態(2)

DivingDeeper2

二つの調査フェーズ

エンビジョン・ソリューションズ社の調査プロジェクト「Diving Deeper」は二つの調査フェーズを持っています。

<第一フェーズ>
インターネットを利用して医療情報を検索する際、ユーザーは医療のどのテーマ分野を主として検 索しているか。その際、どんなワードで検索しているか。」を特定すること。その上で、そのテーマ分野と検索ワードを使って実際に検索した結果を観察すること。

<第二フェーズ>
第一フェーズで特定したテーマ分野と検索ワードを使って検索した結果、ユーザーが訪問する最も人気のあるサイトを調べる。

UGMの出現確率

まず第一フェーズですが、この調査プロジェクトに先行する調査「Online Health Search 2006」(Pew Internet & American Life Project)に基づき、下記のような四つの検索テーマ分野と八つの検索ワードが特定されました。(Table1,Table2)

T1

T2

これを見ると、インターネットで最も多くの米国ユーザーが検索するテーマ分野は「病気、医療問題」であり、その際使われる検索ワードは「糖尿病」が一位で「疱疹」が二位という結果になっています。そしてTable2にある八つの検索ワードで、実際にGoogleとYahooで検索を行い、その検索結果の最初の3ページに表示されるサイトを観察しました。そしてその中にUGMがどの程度出現するかを計測することにより、ユーザーがどの程度、医療情報検索時にUGMと接触しているかを把握しようとしたわけです。ここで言われるUGMとは下記のものを指します。

  • ブログ
  • 掲示板
  • Wiki
  • ポッドキャスト
  • その他のUGM(患者や医療者など個人によって作られたコンテンツを持つサイト)

調査結果を見ると、最初の三ページにおけるUGM出現確率は87.5%と高いことが分かりました。つまり医療情報検索時にユーザーがUGMに接触する機会は多いことが立証されたわけです。検索結果の最初のページだけを見ても、Googleの場合87.5%、Yahooでは62.5%となっています。下表にUGMの内訳が示されていますが、Wikipediaの出現確率が高いことが注目されます。

ユーザーが実際に訪問する医療関連サイト

第二フェーズですが、結論から言うと「非営利団体、製薬メーカー、企業、政府などによって制作されたコンテンツに、ユーザーは信頼を置いている」という結果になりました。たとえば「糖尿病」検索ユーザーの32%が非営利団体であるアメリカ糖尿病協会サイトを訪問しており、約8%が政府の疾病対策センターのサイトを訪問しています。

T3

またあるケースでは検索者がUGMを見ている実態も分かりました。抗うつ剤のLexaproを検索するケースでは、製薬メーカーサイト(lexapro.com)に訪問が集まるのは当然ながら、抗うつ剤の情報を提供する人気ブログ(crazymeds.org)にも5%のユーザーが訪問していることが確認されました。「躁うつ病」検索の場合、約7%のユーザーはWikipediaサイトを訪問しています。

結論

この調査プロジェクト「Diving Deeper」は二つのことを明確にしました。まず先行調査によって提起された「アメリカ人はインターネットで医療情報検索をする際、なぜそのデータソースや日付を確認しないのか」という設問に対しては、「多数のインターネットユーザーは、信頼ができ、定評があると広く見られている非営利団体、企業、政府などのサイトを信用しており、そのサイト上の情報を精査する必要はないと感じているからだ。」と説明がつくことが示されたわけです。

そして次に、UGMが医療情報検索のリソースとしてその重要性を増してきていることも明らかにされました。特にWikipediaは、非常にしばしばリファレンス医療情報として利用されていることがわかりました。そして最後に「crazymeds.orgのようなサイトを作っている”市民医療エクスパート”とでも呼ぶべき人々」の役割を肯定的に評価してこの調査レポートは終えられています。

以上がこの調査プロジェクトの概要ですが、これを読みながらまず想起されたのは「Web上の医療情報の信頼性の問題に、ユーザーの検索行動実態から初めて光があてられた」ということです。この調査結果を見る限りユーザーの検索行動は、やはりと言うべきか、思いのほか常識的な慎重さを示しているといえます。従来のような「医療関連サイトをレギュレーションで取り締まる」という発想は必要ではなく、むしろユーザーの慎重なネット上の行動とそのリテラシーに情報の吟味を任せるべきだとの思いも強まります。しかし、他方では先日の関西テレビ事件にも明らかなように、「簡単に操作されるオーディエンス像」という別の顔が生活者側にあることも事実です。このあたり、まだ容易に結論にたどり着けません。

また、医療においてもUGMの存在感が増していることは、この調査結果でも明確にされました。医療UGMを扱った、おそらく最初の調査として貴重であると思います。

私達は闘病者たちが自発的に生み出す闘病記などを、UGMとして積極的に評価したいと考えています。Web上で一方的に「情報の受け手」の立ち位置を強いられていた医療情報検索者や闘病者たちが、積極的にWebとかかわり学習、表現、コミュニケーションを主体的に展開する。そのような時代の幕が徐々に開き始めてきているとすれば、そこに参画する者に少し元気を与えるような、そんな調査プロジェクト「Diving Deeper」でした。

SOURCE: “Diving Deeper Into Online Health Search”
Examining Why People Trust Internet Content & The Impact Of User-Generated Media
Envision Solutions, LLC

三宅 啓   INITIATIVE INC.


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