生活者のWeb医療情報利用実態(1)

DivingDeeper

Web上の医療情報はどのように利用されているか?

インターネットによる医療情報の利用をめぐって、これまで主として、情報の送り手がどのように医療情報の信頼性や正確さを確保していくかという点でさまざまに議論がありました。 この中で、アメリカではHONやURACなど、一定の基準の下にサイトの審査認定を行う団体まで作られました。これらインターネット黎明期に模索され提起された言説や諸活動は、しかし、日々進化するWebの現実に次第にフィットしなくなってきています。

まず検索エンジンの進化によってユーザー動線が変化し、Web上のユーザー行動自体も大きく変化してきています。またソーシャルメディアの出現によって、Web上のプレイヤーも個人の比率が高まり、「送り手=受け手」という事態も増えてきました。

従来、ともすれば「送り手発想」で「Web上の医療関連サイトはどうあるべきか」など、送り手視点だけの議論が先行していましたが、 むしろ「受け手」である「生活者=ユーザー」がどのようにWeb上の医療情報を利用しているかを把握することの重要性が増してきています。そのような問題意識を背景に、最近、アメリカではWeb上の医療情報に関するユーザー利用実態調査がいくつか発表されています。しかし日本で、このような調査をどこも実施していないのが残念です。

その中で、新たなソーシャルマーケティングを提唱している、ユニークな医療マーケティング企業であるエンビジョン・ソリューションズ社が、先日発表した調査プロジェクト「Diving Deeper Into Online Health Search」の結果をご紹介しながら、生活者の医療情報利用実態について考えて見たいと思います。

先行する”Pew Internet”の調査結果

さて実はこの「Diving Deeper」という調査プロジェクトですが、昨年秋に”Pew Internet & American Life Project”から発表された調査「Online Health Search 2006」の調査結果に触発されて開始されたとのことです。その調査結果を要約すると次のようになります。

● 毎日、アメリカの一千万人の成人がインターネットで医療情報を検索している
● 検索者の66%はGoogleやYahooなどの汎用検索エンジンを検索時に利用している
● 検索者の53%は、見つけた最新情報が、彼ら自身や他人の健康維持の仕方に影響を与えていると報告している
● 検索者の56%は、彼らが見つけた情報が、医療に関し、自信を持って意思決定する力を強化してくれると言っている
● アメリカ人のほとんどは医療関連のコンテンツを検索する際、「デューデリジェンス」(精査、適正評価)を行使していない。アメリカ人の医療情報検索者の内、わずか15%だけが、「いつもインターネットで見つけた情報のソースと日付をチェックしている」と言っている。

問題は最後の結果です。エンビジョン・ソリューションズ社はこの最後の調査結果に着目し、「このPewの調査結果は、人々がどのようにネット上の医療情報を消費しているかについて、興味ある仮説を新たに提起している」と考えました。ここから、エンビジョン・ソリューションズ社の調査プロジェクト「Diving Deeper」が始まったわけです。「興味ある新たな仮説」とは、Pewが導き出した調査結果「アメリカ人のほとんどは医療関連のコンテンツを検索する際、「デューデリジェンス」(精査、適正評価)を行使していない」の原因を説明するための、いわば説明仮説とも言うべきものでした。それは下記の二点です。

● アメリカ人がネット上の医療コンテンツを信用しているのは、しかっりした信用のおけるサイトだと、彼らが十分によく考えたサイトを訪問しているからなのではないか?
●彼らはUGM(User Generated Media)に接触しているのではないか?。これは重要である。というのは、自分たちの仲間によって作られたコンテンツを、彼らが非常に高く信用する傾向があるということは、一般的に当然であると考えられるからだ。

以上の仮説を検証するためにエンビジョン・ソリューションズ社では、昨年12月から今年1月にかけて新たな調査プロジェクトを実施しました。しかし、この「調査リレー」のこれら経緯は非常に興味深いものです。Pewもエンビジョン・ソリューションズ社もどちらも別個のマーケティング会社で、競合関係にありますから、普通はこのような調査リレーや相互連携は起こらないはずです。しかし、社会全体の知見が増えるのですから、このようなことは実はもっと起こってよいことだと思います。

エンビジョン・ソリューションズ社の仮説検証調査は次回に。(続く)

三宅 啓  INITIATIVE INC.

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