年の初めにいきなり不景気な話で申し訳ないが、昨年末、米国の医療ポータルWebMDが従業員250人のレイオフを発表した。これは全従業員1400人の約14%にあたる。WebMDと言えば1996年設立以来、ずっと米国トップ医療ポータルの座を維持してきたが、とうとう2011年、EverydayHealthにその座を明け渡している。これはRevolutionHealth買収(2008年)を布石とするEverydayHealthのWebMD追撃戦略(「競争激化する米国医療ポータル市場」参照)が、三年たってようやく実を結んだものと言えるだろう。
最近の両社のトラフィック状況を見ると、月間ユニーク・ビジター数でEverydayHealthが2,200万人、WebMDが2,000万人程度である。WebMDはEvrydayHealthの後塵を拝しているのだが、昨年2012年を通じて、ユニーク・ビジター数もページ・ビュー数も伸ばしてはいる。それでもリストラに至ったのは、製薬業界からの広告をはじめとする収入が激減したためである。米国製薬会社のDTC(Direct To Consumer)広告予算は2006年をピークとして下降する一方であり、さらに追い打ちをかけるかのように、ファイザーのリピトール(Lipitor: 血中コレステロール降下剤)をはじめ製薬各社の薬品特許切れが相次ぎ、「まるでタオルを投げるように」(米国製薬業界関係者の弁)マーケティング活動から撤退が始まったといわれている。
製薬会社のマーケティング予算が一斉にシュリンクする中で、これまで容認されていた各種マーケティング活動に対し、製薬各社の担当は非常にシビアにその費用対効果を吟味するようになってきている。とりわけレガシーメディアに比べ効果エビデンスの蓄積が薄いオンライン活動に対し、予算削減が顕著になっており、どうやらこの影響をWebMDはもろに受けたようである。
以上のような米国ウェブ医療サービスの現状を見ていると、WebMDのように特定業界(製薬)に依存するビジネスモデルというものを、今後あらためて検討しなおす必要がありそうだ。たしかにこれまで、製薬業界は医療業界エコシステムの資金エンジンと目されてきたのだが、今後もそうであるとは限らないだろう。一方、先日ラスベガスで開催されたCESでは、家電各社が医療分野への取り組みを加速させ始めていることが明らかになっている。従来は医療市場のアウトサイダーであった家電各社も、やがて医療分野におけるブランディングに着手するだろう。ウェブ医療サービスも、これからは特定業界だけを見ていてはだめで、リスク分散のためにアウトサイダーとの連携を視野に入れる時期に来ているのかもしれない。
三宅 啓 INITIATIVE INC.