患者SNSの考察

MDJ

最近ウェブを巡回していて、ある患者SNSサイトが姿を消していることに気づいた。たしか春先にはまだ活動していたと思うのだが、いつのまに消えてしまったのだろうか。無性に寂しさが募る。残念だ。だがそれと同時に、改めて患者コミュニティの困難さというものを考えてしまう。

ところで当方は「ネット上の闘病サイト3万件」とこれまで推定してきたが、最近は「3万から5万件の間」と言うようになってきている。ゆっくりとだが闘病ユニバースは成長している。だが、この「3万から5万」という数字をどう見るかが問題なのだ。この数字を大きいと見るか逆に小さいとみるかで、闘病ドキュメントなど患者生成コンテンツに基づくウェブ・サービスのあり方は変わってくるのではないか。あるいはこの数字が何を意味しているかを洞察することによって、どのようなサービスが成立可能になるか仮説を組み立てることもできるのではないか。

ではこの「3万から5万」という数字の意味だが、これはネット上でコンテンツ生成する闘病者の概数を示しているのではないかと思う。ネット上で闘病体験を公開する人は、次の三つの条件を満たす人でなければならない。

  1. 自分あるいは自分の家族友人が闘病体験を持っている人
  2. 闘病体験を書き記録する人
  3. 闘病記録をネット上で公開する人

ところでこの三条件は、誰もがクリアできるかといえばそうではない。闘病体験がある人は、われわれが思っているほど多くはない。そして闘病体験があるとしても、全員がそれを書き、記録するわけはない。面倒くさい、億劫、時間がない、闘病に体力・気力を使い果たし書く余力はない等々、人は「書かない理由」に事欠くことはないのだ。さらにもしも闘病記録を書いたとしても、それをネット上に公開するかどうかはわからない。闘病情報をプライバシーとして秘匿すべきだと考える人は多い。こう見てくると、この三条件を全てクリアするのはそんなに簡単なことではない。そして細かい傍証は省くが、そのクリア総数がおよそ「3万から5万」なのではないかと当方は推定している。当面、これが10万や100万に一気に拡大する可能性は低い。

つまり大よその目安として、この「3万人から5万人」というのがたとえば患者SNSなどの対象者になると考えてもよいのではないか。これはサービスの対象者としていささか少なすぎる。闘病記録を日記形式で書かせるようなサービスの困難さは、実はここにあるのではないか。闘病体験を書き公開するということは、予想以上に患者や当事者にかかる負担が大きいのではないだろうか。

疾患別にコミュニティを編成し、各コミュニティが活発にコンテンツとコミュニケーションを生成し「動くコミュニティ」になるためには、一定のクリティカル・マスへ短時間に到達しなければならない。その前に消えていく患者SNSが多い。

また別の観点から見れば、以上の条件をクリアしてネット上に出現してくる闘病サイトというものが、実は非常に希少な存在であると思えてくるし、「3万から5万」という数も、むしろ大きい数字に見えてくる。

一方、患者SNSのようなサービスは、日記や闘病記を書かせるような負担を軽減し、参加障壁を下げ、参加メリット感を上げるような方向が求められるのかも知れない。「日記や闘病記を書く場所」ということから、たとえば「交流メリットが実感できるサイト」へとサイトコンセプトを移動することも考えられる。だんだん、そんなことがわかってきたような気がする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>