逆説的所感から医療革命まで

IPS
昨日、「こんにちは、しばらく」と夏が戻ってきた。事務所の窓から外を見ると、大きな蜂がうろうろ飛び回っている。やがてとうとう、ベランダに出していた観葉植物の葉っぱの裏にぶら下がって休憩。この暑さに、蜂もまいっているようだ。しばらくするとトンボまで飛んできて、こっちも観葉植物の上で羽を休めていた。そして、今朝起きて石神井公園を散歩してみると、もう秋が来ていた。

夏から秋へ季節は変わる。依然として、当方はTOBYOプロジェクトとDFC開発に取り組んでいる。先週、ある新聞社から取材を受け、「TOBYOのアクセス状況はどうでしょうか?」と質問された。「まだまだ少ないですよ」との当方の返答に訝しげな表情をしているので、「闘病サイトが月間で何億ページビューもアクセスを稼いだら、それはそれでおかしなことですよ。病気のサイトにそんなに人が集まること自体、あまり良いことでもないでしょう」と続けた。

改めて考えてみるとTOBYO公開以来、私たちはアクセスを稼ぐことにあまり熱心ではなかったかもしれない。広告やSEOをはじめ集客のための手も、何一つ打ってきていない。それよりもジワジワと闘病者の間に浸透し、いづれ徐々に闘病活動に活用されるようになっていけばよい、くらいの考えであった。それにTOBYOはあくまで闘病者をターゲットにしており、無理に健常者まで集める必要はない。また、闘病体験とはある意味で「負の情報」であり、そもそも鉦太鼓で宣伝するような性質のものでもない。

本当は、病気を体験しないほうが良いに決まっている。病気を体験しなければ、闘病ドキュメントとか闘病記を書く必要もない。病気や闘病ドキュメントというものを考える場合、これが最も基本的な視点ではないだろうか。だが、往々にしてこれらシンプルで常識的な視点は忘却され、病気や闘病記自体を自己目的化するかのような言説や発想を目撃することがある。忘れてはならないことは、究極的に私たちがめざしているのが「病気のない社会」であるということだ。そしてそれは「闘病記が書かれない社会」でもある。このように考えてTOBYOプロジェクトを見ると、逆説的だが「(ネット上の闘病ドキュメントを共有し活用して)、誰も闘病ドキュメントを書く必要のない社会を目指している」と言えるだろう。

では「病気のない社会」の実現性はどうかと問えば、遠い未来に求めるしかないとの諦念が先立ち、そんな脳天気な「理想」をまともに議論する気さえ失せがちである。しかし、それでも医学研究は日進月歩であり、医療はまさに今日、革命的な変化を遂げようとしている。先日(9月18日)、NHKスペシャル「“生命”の未来を変えた男~山中伸弥・iPS細胞革命~ 」を見て、そのような感を深めた。

これから起きる、IPS細胞(上写真)による創薬、臓器製造、再生医療、生殖医療等の革命的展開は、確実に今日の医療の姿を根本的に変えてしまうだろう。番組ではIPS細胞を使ったALSの発症メカニズムの研究、移植臓器不足を解消する「ヒトの肝臓を持つ豚」の製造研究、IPS細胞から精子と卵子を作り出す生殖医療などが紹介されていたが、すべて驚くべきものである。これらの恩恵は、これまで研究開発対象となりにくかった稀少難病にももたらされるはずだ。

無論IPS革命によっても、直ちに「病気のない社会」が到来するとは思えない。それでもこのIPS革命には、これまでの医療技術革新とは次元を画するような、人間社会全体への本質的なインパクトがあるように感じる。先月、六本木ヒルズで開催されたHealth2.0 Tokyo Chapter2のTOBYOプレゼンで「私たちは医療からウェブを見ているのではなく、ウェブから医療を見ている」と発言した。この言葉どおり、私たちはウェブに軸足を置いて、これらの医療革命に関わり、できれば参画していきたいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


逆説的所感から医療革命まで” への1件のコメント

  1. PV稼ぎが自己目的化するのは違うと思いますが、一方で他人の闘病体験を参考にしたいと思っている患者さんが、TOBYOの存在を知らないまま過ごされるのも、勿体ない話ですので、うまい方法を考えたいですね。

    闘病者は、ベテランの域に達する前の”初心者”の時期ほど情報ニーズが高いですから、そうした人たちが情報をとりにくる場所で目に触れるようにしたいものです。

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