医療評価、競争、進化

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昨日エントリでEHRなど医学情報と闘病体験ドキュメントの相互関係について考えたのだが、これは例の「EBMとNBM」みたいな話とは一切無関係である。エビデンスとナラティブを対置するような議論は、実は何ら生産的なものではなく、いわば「科学 対 人間」のように通俗的な、昔懐かしい対立図式を反復して見せているに過ぎないのだ。このような通俗性ゆえに、一見して、誰にもわかりやすい理屈に見えるのだ。しかしこれら通俗的論議は、今日の医療をどのように変えるのかという具体論を回避し、実践的課題から目をそらすためのレトリックに過ぎない。

患者体験ドキュメントに価値があるとすれば、それが「ナラティブ(物語)」であるからではなく、そこに実際に体験された「ファクト(事実)」があるからだ。「語り」という叙述の形式が問題なのではなく、どのような叙述形式であれ、それによって記録される内容(事実)のほうが価値を持つはずだ。そして事実は医療を可視化する。すなわち患者の目を通じて医療は可視化される。EHRなど医療情報システムによって記録された医学的事実と、患者の目を通じて自発的に記録された体験的事実。この「二つの事実」は、医療の実践者と被験者の双方の視点から観察された「事実」であり、実は医療のみならず、およそ「サービス」というものが避けがたく持つ二つの側面を示している。どのようなサービスも「提供者の事実」と「消費者の事実」という二面性を持っているのだ。

では、これら二つの事実によって具体的に何が可能かといえば、それは医療評価である。まず病態によって調整されたアウトカムの公開があり、そしてピッカー・メソッドに代表される患者視点の医療評価がある。これら二つの事実から導きだされる医療評価は、より高品質で低コストな医療へ向けた競争のトリガーになるだろう。そして「提供者の事実」と「消費者の事実」の二つのうち、後者に立脚し「患者満足」を実現することが医療マーケティングの目的である。今後、私たちのDFCなどが「消費者の事実」を多面的に明らかにすることにより、患者満足実現へ向けた多くの実践的な取り組みが始まることを期待したい。

およそすべてのサービスは、品質とコストをめぐる競争によって進化することができる。医療とてその例外ではない。しかし従来の医療は、日本においても海外においても、あまりにも競争の力が弱すぎた。それゆえに他業界のどんなサービスに比しても、その進化は大幅に遅れてきたのである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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