「コマンド&コントロール」からブログ・マーケティングへ

Shinjuku_100715

昨日のエントリは「手作りパンブーム」から書き始めたのだが、途中からあらぬ方向へ脱線してしまった。一応のアウトラインは準備していたが、それを無視するかたちで予期せぬ方向へと筆が進んでいった。ある意味でこういうハプニングは面白い。何事も万事が予定調和で進んでしまえば、アイデアや新しいビジョンが訪れることはない。ブログを書くということは単に自分の考えをまとめるだけの作業ではなく、書きながら考え、何か新しい視点を獲得する端緒をつかむような、そんな創造的活動なのかもしれない。

昨日書こうと考えていたのは、実はブログ・マーケティングのことだった。昨今の手作りパンブームに便乗する形で、家電各社はホームベーカリー機器に注力している。三洋電機はコメで安価にパン生地を作れるパン焼き器を、パナソニックはパリパリ感のあるパン皮が焼けるパン焼き器を最近発表している。いずれもブログを中心としたプロモーション活動を投入する予定らしい。

かつてはマスメディアやイベントで「ブーム」を仕掛け、ユーザーを巻き込むスタイルのマーケティング活動がフツウだったが、すでに前世紀の終り頃には、このような「コマンド&コントロール」型のマーケティング活動は期待される効果を生み出さなくなっていた。企業やメディアが新しいライフスタイルを提案し、消費者が唯々諾々とそれに付いて行くような時代は去り、消費者は企業やメディアを乗り越えてはるか遠くまで行ってしまったのである。

たとえば「手作りパン」ブームであるが、これは企業やマスメディアが仕掛けた結果起きた現象ではない。あくまで消費者が自然発生的に作り上げたブームであり、その主要な情報伝播チャネルはマスメディアではなくブログである。今回、企業やメディアはブログを観察する中でこの「手作りパンブーム」を事後的に「発見」し、それを後追いする形で新製品を投入し、さらにブームのメインステージであるブログでプロモーションを打とうとしている。

当方、前世紀には広告屋として「コマンド&コントロール」型のマーケティングに汗を流していた一人だが、この10年くらいのうちに事態は劇的に変わったことを痛感する。もはや「ブーム」は先行的に仕掛けるものではなく、逆に事後的に発見すべきものへと変わった。そして「ブーム」が生起する瞬間を見落とさないためには、トレンド誌などをチェックするのではなく、ブログなどソーシャルメディアへ確実に網を張っておくことが必須となったのだ。

だがこれらに対応するには、「頭の切り替え」さえ徹底できれば決して困難ではない。しかしこの「切り替え」ができない人々にとっては、状況は絶望的に困難に見えるはずだ。だから、かつての20世紀の成功体験をいまだに積極的に忘却できない人たちは、早く若い人たちにその仕事の現場を明け渡すべきなのだ。

頭をきれいさっぱり切り替えれば、たとえばブログは消費者の生活情報の宝庫であることに気づくはずだ。自然発生的に思わぬ形で生起する「ブーム」も、消費者ブログを丹念に観察しトレースして行けば確実にキャッチできるだろう。従来の「コマンド&コントロール」発想を転倒してしまえば、ある意味でマーケティングは従来以上に精緻に効率化されるだろう。

端的に言えば、今日、膨大なコストと人手をかけて「手作りパンブーム」を一から作るよりも、生起してきた「手作りパンブーム」をいち早く察知し、スピーディーに対応する方がコストは安くリスクは低いのである。すなわち賢明な選択なのだ。

医療においても同様のことが言えるはずだ。私たちのDFC(Direct From Consumer)は、闘病者たちの生活現場で生起している事実、ニーズ、行動を可視化するためのツールである。これを活用すれば、効率的でしかも消費者ニーズに応える医療を実現することができるはずなのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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