日曜日とタラ・ハント「ツイッターノミクス」(文藝春秋)

Tara_Hunt

春の到来。早くも来週あたりから桜が咲くらしい。

午前中、妻と新宿ピカデリーで「インビクタス」 を観る。ラグビー好きにはこたえられない映画。すでに語られたことではあるが、やはりネルソン・マンデラとリーダーシップ論について考えさせられた。だが早稲田ラグビーを辞めた中竹前監督の「フォロワーシップ論」もなかなか捨てたものではないと思う。

午後、墓参りに愛宕山の寺へ。その後、池袋でCDショップと書店を見て歩く。CDショップでスコット・ウォーカーのオリジナルLPを二枚発見。ジュンク堂でタラ・ハント「ツイッターノミクス」購入。

帰宅してスコット・ウォーカーの二枚を早速ターンテーブルに乗せて聴く。やはりフランスのジャック・ブレルへの傾倒を確認したが、この「早すぎる老成ぶり」をどのように解釈すればよいのだろうか。まるでフィル・スペクター・オーケストラをバックにジャック・ブレルが歌うような違和感を感じる。だが、それでいてボーカルの技術は完璧でしかも表現は深い。うますぎるところがスコット・ウォーカーの欠点だ。

まさか日本でタラ・ハントの本を買う日が来るとは思ってもみなかった。思い返せば2005年、その頃席巻していたWeb2.0関連のニュースを毎日追跡し、海外ビジョナリー達のブログをRSSリーダーで読むことに没頭していた。その中でたまたまタラ・ハントのブログに出会ったのである。当時、タラ・ハントはRiyaという顔面認識ソフト開発のマーケティング担当であったが、彼女のとにかく自由奔放な言説に魅了されたわけである。「バジェットゼロのマーケティング」、「The Market is Conversation」、「Pinco Marketing」など、タラ・ハントから2.0以降の新しいマーケティングの発想をたくさん教えられ、それらは後にTOBYOプロジェクトの基礎となったと思う。

今にして思うと、やはり彼女もデビッド・ワインバーガーらの“The Cluetrain Manifesto” を出発点としている。タラ・ハントの「ツイッターノミクス」について「ツイッターのみならずWeb2.0のソーシャルツールによってルールがどう変わったのかを教える本」との解題がされているが、インターネット初期における“The Cluetrain Manifesto”登場のことを考えると、むしろインターネットが登場すると同時にマーケティングは根底的に変わることが意識されたのだと思う。その意識を最初に表出したのが”The Cluetrain Manifesto”である。「Free」も「ウィキノミクス」も今度の「ツイッターノミクス」も、すべてその延長線上にあると思う。

しかし、(当時の印象では)タラ・ハントはブロガーとして順調に一般的な成功を収めたのではなかった。彼女のラジカルな言説は常に強い反発を呼んでいた。Riyaプロジェクトにおいても、経営陣との開発方針の違いを理由に同プロジェクトを去らざるをえなかった。その後、Riyaと顔面認識技術はGoogleに売却されたと思う。

まだこの本を読み終わったわけではないが、目次と全体を見るだけで以上のような「影」をなんとなく感じさせる部分がある。このような「影」を経験し受容しながら、2.0は成熟していくのだろう。それは「早すぎる老成」ではない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


日曜日とタラ・ハント「ツイッターノミクス」(文藝春秋)” への2件のコメント

  1. 勉強になりました。RIYA における経営陣との対立や、そのラジカルさゆえの反発の大きさなど、この本の背景を理解するうえで貴重な情報です。ありがとうございました。 公式アカウント twnomics のほうでも紹介さけていただきました。

    TOBYO のアイデアもすごい。

  2. 下山さん

    コメントをいただきありがとうございます。
    タラ・ハントの本が日本で訳出されるとは思っても見ませんでした。
    当方の拙いエントリが何かの参考になれば幸いです。

下山進(文藝春秋) にコメントする コメントをキャンセル

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