医療情報の流動性とベンチャー

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寒い日が続く。乾燥し大気が澄んでいるせいか、富士がやけにくっきりと、手が届くような近さに見える。

さて昨日のエントリ「医療情報の流動性」だが、考えてみれば当方のTOBYOにしても、患者をはじめ闘病者の体験情報の流動性を高めフローを促進するためのツールと言えなくもない。従来、闘病体験は患者とその家族や知人周辺でしか共有されていなかった。闘病体験情報は特定の個人とその周辺に貼りついて固定化されていた。それがネットワークに配信されるようになると、それら情報は流動性を獲得し、個人を越えてフローし、社会全体で共有される可能性を持った。つまり個人的な体験がネットによって社会化されたのである。別の言い方をすれば、個人的な体験がパブリックな価値を持つようになったのだ。そしてTOBYOは、この社会化された闘病情報の流動性とそのパブリック価値をさらに高め、より多くの人に活用されるためのツールをめざしている。

あるいは医療提供側の医療情報フローが現状では十分でないために、患者体験のフローを通じて医療の可視化をはかるプロジェクトであるとも言える。本来なら昨日のレポートにもあるように、「患者と医療機関の間の医療情報フローとコミュニケーションの強化」をはかるべきなのだろうが、圧倒的に医療機関側が情報コントロール権を握っている日本の現状ではむつかしい。

言うまでもなくインターネットは情報フローのコストを劇的に下げ、また従来にないような情報の流動化を実現している。これらの状況に対し、たとえば旧来の著作権のように、情報に独占的な権利を設定し自由なフローを阻む考え方は、もはや桎梏以外のなにものでもない。医療においても、新しい消費者ベネフィットを創出する機会がさまざまに生まれているのだが、どうやら既存の医療界およびその周辺のプレイヤー達にはそれらが見えていないか、あるいは意識的に無視しようと決めているかのようだ。

このような現状において医療関連分野のベンチャー企業は、消費者ベネフィットの源泉としての「情報の流動性」をさらに高め、そこから従来にない新しい価値を創造していくことになるだろう。そして従来にはない消費者ベネフィットを創り出せば創り出すほど、この国の医療を確実に変えていくことができるはずだ。だから医療関連ベンチャーは、旧来の医療界に過剰適応する必要はなく、ただ消費者と闘病者のニーズだけをひたすら焦点化し、「情報の流動化」に寄与することだけを考えて前進するのみだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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