英国NHSのITプログラムに対するHealth2.0的批判

DavidCameron

7日のエントリーで英国NHS(国民保健サービス)のPHRローンチを取り上げた。これに対して、英国保守党の党首デビッド・キャメロン氏が全面的な批判を加えたことが報道されたのだが、この批判の内容が米国のHealth2.0コミュニティでちょっとした話題を呼んでいる。意外にもキャメロン党首の批判内容が、かなりHealth2.0ムーブメントを彷彿させるものだったからだ。

彼(キャメロン党首)は、人々の医療と健康を、人々がより多くコントロールできるようにするために、NHSはネットワーク・エコノミーの機会を理解する必要があると言った。彼は、巨大な大学付属病院にしまわれている医療知識の伝統的モデルと、どんな医師が知ることができる知識よりも多くの情報をGoogleが個人に利用できるようにしている今日の現実を対比して問題点を説明して見せた。(”Cameron says NHS IT must be local”,eHealthInsider,03 Jan 2008 以下同)

加えて、彼はソーシャル・ネットワーキングやWeb2.0の技術によって、医療知識が患者自身によって創られつつあると述べた。「患者体験は水平に流布されている。以前のように医師から患者へと垂直にではなく、オンライン・ネットワークを通して患者から患者へと。」

彼はまた病気の子供を持つ父親として、子供の治療情報をGoogleで探した自分の体験を語った。「あなた達はインターナショナルな支援グループに参加できる。あなた達は薬と治療情報をピックアップできる。大抵はこれらのことについて医師を質問攻めにするだろうが、それらはしばしば正しい質問だが、時には質問する前に情報を検索した方がよいかもしれない。」

「そしてこの知識の水平的普及は、政府提案の巨大で中心化されたNHSデータベースよりも、より良いものを作れるとの確信をわれわれにさせるのである。」

これらのキャメロン党首の演説を聞いていると、そのあまりの2.0チックさに驚かされる。2兆数千億円という巨大予算の英国政府の医療IT化を「時代に合わない」と切って捨て、むしろ「脱中心化、分散システム、互換性」のメリットを活かすべきだと主張しているのだが、このような認識をもった政治家を擁するとは、英国保守党、侮りがたし。否、「右か左か」とか「進歩派か保守派か」といった伝統的な対立軸が既に消失した今日、むしろネットワーク社会にどのような態度をとるかが政治的メルクマールになるのかもしれない。

キャメロン党首は続けて言う。医療サービスは完全に統制され中心化された構造から、脱中心的なオープンシステムへと移行すべきであり、そこでは知識とパワーが普及し民主化されなければならない。「国家メインフレームの代わりに、われわれは地方ネットワークの時代に入ろうとしている。このことを特に医療に適用しなければならないのだ」。

たしかに、従来のしがらみの延長線上に医療を見るのではなく、むしろこれからのネットワーク社会が提示しはじめている知識情報の新しいアーキテクチャーや、ユーザー参加型アーキテクチャーから医療を見直していく必要があるのではないだろうか。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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