二つの視線

ブログを書くようになって、いろいろな人から声をかけてもらい意見交換する機会が増えてきている。テーマは様々だが、やはり新しい医療サービス、それもウェブを利用したサービスの可能性について議論することが多い。新規事業アイデアの可否をめぐって意見を求められることもある。もちろん、これらのディスカッションが自分にとって興味深いことは間違いないのだが、そこに何か言葉にならない違和感を覚えてしまうことも多い。

その違和感を探ってみると、「医療界から事業を見る視線」と「事業から医療界を見る視線」が互いに交差点を持たないまま行き交う現場に立ち会うことへの、一種の苛立ちがそこにあることに気づく。その二つの視線が仮に交差するとして、理屈の上ではその交点に「患者」が見えなければならないはずなのだが、いくら議論しても患者は現れず交点も見えてこないのだ。しかも一方では「患者中心の・・・・」とか「患者に優しい・・・・」などと、歯の浮くような美辞麗句が空々しく語られているのである。

医療を取り巻くわれわれの言説空間は、何かどこかで歪んでおり、どのような言葉も決して現実へ真っ直ぐには到達しないような、そんな感じさえ持つことがある。これは数年前に医療ベンチャーを目指して以来、当方がずっと持ち続けてきた違和感である。その違和感を持ち続けながら、われわれは「日本の医療」を所与の現実として受け入れそこから出発するのではなく、海外の医療動向を学んで「日本の現実」を相対化するような道を手探りで進んできた気がする。

今、われわれの前に見えている「医療の現実」だけが「現実」であるのではない。本当は無数の「ありうべき現実」があり、それを選択するのはわれわれ自身だ。そう考えると、その選択肢をなるべくたくさん現出させる方向で、シンプルに事業化を考えればよいのではないのか。そのために多数の試行が実行されるべきだ。そしてそれを担うのはベンチャーしかないだろう。

「二つの視線」の延長線上に「患者」が見えないとすれば、そのいずれの視線も捨ててしまうしかない。医療を取り巻く言説空間が歪んでいるのなら、いつまでもそこに属している必要はない。さっさとそこを辞去し、新しいことを、新しい言葉で語り、新しい方法で始めるのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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