相当怪しい「医療2.0論」

海外ではHealth2.0に代表される新しいムーブメントが医療の分野で起動しつつあるが、日本ではそのような動きは今のところない。Health2.0関連の日本語の情報自体がまだ圧倒的に少ない。そんな中で、偶然、薬事日報ウェブサイトで「医療2.0≪医療とWEB2.0≫」という連載コラムが始まることを知り、期待して読んでみたが・・・・・。

師曰く、「期待は失望の母である」。

期待するから失望するのであり、その失望は、期待した者の側の責に帰するものである。とはいえ、このケースでは「失望させる側」の責任も問いたいものだ。「論評するまでもない」と無視の構えをしていたのだが、Health2.0関連で間違った情報が流布するのも座視できない。そんなことで、あえて指摘しておく。

 (3)PHR(Personal Health Record)活用による新たな収益モデル

最初に『Revolution Health』というサービスの根底には「擬似カルテ的データ蓄積」という思想がおそらくあると述べたが、サービスを運営する中で、カルテではないのだけれども、カルテに限りなく近い情報が蓄積されていくはずで、それをBtoB展開することが考えられる。製薬会社に対しては新薬開発に活用することやマーケティングリサーチのデータ提供、公的機関との共同研究、病院・医師への情報販売などが想定される。実現可能性は未知数ではあるが・・・。( 「医療2.0≪医療とWEB2.0≫医療ポータルという分野における新サービス」

ここで述べられていることは、PHRとはまったくなんの関係もない。どうやらこのコラム作者は、PHRをまったくご存じないようだ。第一、「疑似カルテ」などという考え方も言い方も、PHRとはまったく無縁のものである。また、もしも仮にこの作者が述べているように、ユーザーの個人医療情報が「(前略)BtoB展開することが考えられる。製薬会社に対しては新薬開発に活用することやマーケティングリサーチのデータ提供、公的機関との共同研究、病院・医師への情報販売などが想定される」とするならば、プライバシー保護関連法規と抵触する可能性がある。違法なのだ。

RevolutionHealthもそんな危ない橋をわたって、消費者の信用を失うようなまねは絶対にするはずがないのだ。RevolutionHealthのプライバシーポリシーを読んでみたまえ。それに、そもそもRevolutionHealthが「2.0」なのかどうかも、じっくり検討してみたらどうか。このコラム作者は何か「大昔のCRM」の夢からまだ覚めていないのかもしれない。「コマンド&コントロール」の時代は終わったのだ。

次に、このコラム「医療ポータルという分野における新サービス(1)」には医療関連サイトのアクセスランキングが載せられている。これを見て、「どこかで見たリストだ」と思った。なんのことはない、以前、当方ブログで出したリストと同じものだ。しかし出所も調査期間も明らかにされておらず、その上ご丁寧に、数字を四捨五入までしているではないか。

そして、なんとこのコラム作者は、この数字から広告とユーザー課金の売り上げ推定までしているのである。しかしこのデータは2007年1月-3月の三ヶ月間のユニークユーザー数であり、この数字から直接「見込み会員数」とかを推定することはできないのだ。データの使い方がでたらめすぎる。

他にもいろいろ言いたいことはあるが、このへんにしておく。どうやらこのコラム作者は当方ブログをつまみ食いし、適当につじつまを合わせ、とんでもない「医療2.0論」を展開しているようだ。つまみ食いされても、当方は一向にかまわない。このブログから何か利用できるものがあれば、どんどん使ってもらえば良い。ただ、最低限のエチケットだけは守ってほしい。他人の言説や資料を引用するなら、まして商用メディアでものを書くのなら、その引用出典を明記してもらいたい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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