コミュニティの治癒力:「ソフィアズ・ガーデン」

sophia

Health2.0コンファレンスで多数紹介されたニューサービスの中で、ひときわ注目を集めた患者SNSが「ソフィアズ・ガーデン」であった。実はまだこのSNSは稼働していない。コンファレンスではプロトタイプは紹介されたようだが、このSNSが注目されているのはその「Healing in Community」というコンセプトにあるようだ。

2002年3月15日、このサイトの共同創立者であるリチャード・ハッチ氏とカレン・ヘルツォーク氏夫婦は、生後10か月の娘ソフィアが余命三年と宣告された。ソフィアはニーマンピック病という不治の遺伝性疾患にかかっていたのだ。

ここから夫妻の闘病ストーリーが始まる。彼らは現状の医療が患者、家族、友人のニーズに適合していないことを悟り、広く社会に援助を求め、やがて自発的な協力者が集まってコミュニティを形作った。このコミュニティにおける貴重な体験がこのソフィアズ・ガーデンの原点となった。

リチャードとカレン夫婦がユニークなのは、単にコミュニティでの情報や体験の共有にとどまらず、それらを推し進め、コミュニティでの「ヒーリング」(治癒)の可能性に着目した点だ。普通、2.0系のコミュニティサイトが目指すのは、あくまでも情報共有である。お互いの知識や体験を集合的に利用するメリットを最大限に追求するのが、2.0的なコミュニティサイトに共通する方向感覚である。だがソフィアズ・ガーデンでは、もっと積極的で包括的なコミュニティの力を引き出そうとしている。

われわれの最初の挑戦は、生命を脅かされていると診断された子供を持つ家族のために、総合的なウェブベースのサバイバルキット、すなわち「Healing in Community」を創造することだ。それは家族に情報をもたらし、支援し、彼らの身体、感情、財政、社会、文化そして魂などすべてのニーズを解決するコミュニティの力を、家族が利用することを可能にする。

(ソフィアズ・ガーデン,Overview)

さあ、家族が孤独ではないような世界を想像しよう。人間的な治癒の集合的な知恵を、全ての人に、とりわけ不治だと思われている子供たちが利用しやすい世界。そして家族がコミュニティを通じて、強さ、希望、そして治癒を発見する世界。(同上)

このような理想主義が創造された背景には、自分たちの娘が不治の病にあるという絶望から出発し、なおかつそれをコミュニティの力で克服しようとしたリチャードとカレン夫婦の類まれなる実体験があるのだろう。

ソフィアズ・ガーデン・ファウンデーションのミッションは、生命を脅かされている子供たちのために、心やさしく非常に効果的なケアの方法を数多く増やすこと。すべての子供たちの生活の品質を守る医療の主導権を、家族が握るようにできる方法を増やすこと。われわれはこのアプローチを「Healing in Community」と呼んでいる。われわれは、ヒーリングとは本質的にコミュニティの活動努力によるものであり、「コミュニティにおけるヒーリング」アプローチが可能であると信じている。(同上)

昨年、当方はTOBYOの事前リサーチで多数の闘病記サイトを見たが、中でも先天性疾患を持つ子供たちを持つ親の闘病記サイトには深く胸を打たれた。このソフィアズ・ガーデンのミッション・ステートメントを読みながら、その時に感じられた事が思い起こされたのである。

リチャードとカレン夫婦の理想には誰もが感銘を受けるだろう。だがここに提起された「治癒力を持つコミュニティ」という一つの理想郷は、本当に実現するものだろうか。もともと、ウェブにおけるコミュニティは「疎なる」コミュニティではなかっただろうか。コミュニティを構成するメンバーが、多様でしかも自律的に分散しており、相互が疎なる関係にあるということが、ウェブ的なコミュニティとして前提されていたのではなかっただろうか。

だが「治癒力」まで想定されたコミュニティは、これとは逆に「密なるもの」であるような気がする。これを持続的にワークさせるのは一筋縄ではいかないだろう。だがコミュニティについて、われわれはもっと学ぶ必要があるに違いない。

三宅 啓 INITIATIVE INC.


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