Health2.0の現状と展望

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先週開催されたHealth2.0コンファレンスは、サンフランシスコ・ヒルトンに500名の参加者を集め大盛況のうちに終了した。その後、現在ブログスフィアやメディアではこのコンファレンスに関するおびただしい情報が流されており、まだ全部をカバーしきれていないが、コンファレンスにおける主要な議論や新たに提起された問題のおよそのところは把握できた。

Health2.0という分野の確立

まずこのコンファレンスの最大の収穫は、今までぼんやりと自然発生的に、なんとなく「Health2.0」という言葉が使われていたわけだが、このコンファレンスを機会に、明確に或る一つの特定の具体活動分野あるいはムーブメントを指す言葉として、「Health2.0」という言葉が確立され関係者で認知され、さらに世界へ発信された、ということだろう。

この一連のことの成り行きは、二年前、Web2.0という言葉が流布され社会的に浸透したプロセスと非常によく似ている。新しく創造されたコンセプトや世界観に対する熱狂と興奮があり、変革とイノベーションに対する確信が表明され、指導的なビジョナリーといくつかのサクセスストーリーには喝采が贈られる。

スタートアップ企業の活力

だが、なによりもHealth2.0を支えているのは、この間、大量に出現したスタートアップ企業群とサービス群である。上図は、Health2.0と目されるブランドロゴを集めてみたものだが、ここに入りきらないサービス群は多数存在し、さらに新サービスが続々と現われているのである。Health2.0の力源は、このようなスタートアップ企業の旺盛で乱雑な活力に依存しているのである。

伽藍とバザール

Health2.0の主要なビジョナリーとして注目されるスコット・シュリーブ医師は、Health2.0が既に現実の医療の関係性を変えていきつつあるとし、「情報流動性」という新たな概念で医療情報の社会的フローを促し、「伽藍とバザール」という比喩で従来の権威主義的医療とHealth2.0を対比して見せた。この「伽藍とバザール」は、かつてオープンソース運動の指導者であるエリック・レイモンドが提唱したもので、権威主義のシンボルイメージである垂直的な伽藍に対し、人々が乱雑なフリーマーケットを自由に開くような、バザールの水平に広がるオープンなイメージを対置したもの。従来のソフトメーカーのプロプライエタリなビジネスモデルを伽藍的と批判し、バザール的なオープンソース運動を主張したのである。

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Health2.0を構成する三つのグループ

さて、このコンファレンスの出席者は、およそ三つのグループに大別されると言われる。これはある意味で、現在のHealth2.0ムーブメントの主要な担い手を表している。

1.ビッグプレイヤー企業:
Google、Microsoft、Yahoo!、WebMD

2.スタートアップ企業:

3.トラディショナル医療界:

この三者の中でHealth2.0シーンを牽引しているのは「スタートアップ企業」で、あとの「ビッグプレイヤー企業」と「トラディショナル医療界」はどちらかと言えば反応が遅れがちだと指摘されている。

まずビッグプレイヤー企業だが、GoogleHealthの迷走ぶりを見てもわかるが、本格的に本気で医療分野へ進出するのかどうか、いまいち決めかねているフシがある。コンファレンスにアダム・ボスワース氏の代わりに出席したミシー・クラスナー氏は、PHRとしてのGoogleHealthには消極的な発言をしており、汎用検索エンジンつまり「本業」での対応に注力するようなニュアンスの発言をしている。この間のアダム・ボスワース氏の画期的な問題提起と比べ、これには失望を禁じ得ない。

そして「トラディショナル医療界」であるが、Web2.0に触発された若い医療者を除くと、これも反応は鈍いようだ。たしかに「伽藍とバザール」というような対比で、トラディショナル医療界を批判するスコット・シュリーブ氏のような医師の存在は、一般的ではないのだろう。だが最近、IMIA(国際医療情報科学協会)のような医療界エスタブリッシュメント団体が、「Web2.0タスクフォース」を設置することを機関決定したようだ。トラディショナル医療界も遅まきながら変化しているのかもしれない。

ビジネスモデル

そして「スタートアップ企業」だが、問題はかつてWeb2.0のスタートアップ企業が直面したものと同じである。つまり「持続性のあるビジネスモデル」の問題である。広告以外には「エグジット(出口)戦略」しか見えていないということだ。この際の「出口」とはGoogleやYahoo!が買収してくれること。

以上のような様々な問題を明らかにしてHealth2.0コンファレンスは終了した。次回Health2.0コンファレンスは、来年三月ロサンゼルスで開催される予定。


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