インターネット黎明期から、オンライン簡易診断サービスがさまざまに立ち上がったが、これらはその後どうなったのだろうか?。オープンしてから10年の実績を持つこの分野の草分け的サイト、ハーバードがん予防センターの”Your Disease Risk”を見ながら、この分野のWebサービスの問題を考えてみたい。
この”Your Disease Risk”サイトは最初、大腸がんのリスク評価をするために作られたが、現在では12種類のがんをはじめ、糖尿病、骨粗しょう症、心臓疾患、脳梗塞までカバー領域を拡大しているようだ。
サイトの目的をサイト設立者のグレアム・コールディッツ医師は、「このサイトは医師の診察や検査を代替するものではない。むしろ通常の検査を補完するものだ」と述べている。
ユーザーはそれぞれの対象疾患について簡単な質問に答えていくと、自分の現在のリスクが表示され、リスクを上げる要因と下げる要因がわかるようになっている。これによってユーザーは、どのように生活習慣を改善すればリスクを下げられるかを把握できる。また必要な検査や生活改善コミュニティも紹介されている。このサイトの他のコーナーでは、ビデオキャスティングやポッドキャスティングなど学習ツールも利用できる。
このようなリスク判定サービスは、今日、健康ポータル系サイトをはじめとしてWeb上に多数存在している。これらサービスが、実際にどのようにユーザーに利用されているのかは不明であるが、さしたるユーザーベネフィットも提供できているようには思えない。この”Your Disease Risk”も、生活習慣病の予防啓発サイトという位置づけになるのだろうけれど、なんとも中途半端な機能しか提供できていないように見える。
その「中途半端性」を考えて見ると、「本当は病院で検査し、医師に診断してもらうべきだ」ということがはっきりしているのに、どこか「当座の代用品ですが・・・・」というエクスキューズをしながら、リアルのアナロジーを提示しているようなところが問題なのだろう。しかも、いかにインターフェースを強化しようが、問診票を精緻化しようが、この「代用品」あるいはアナロジーという宿命がある限り、このようなサービスは進化のカルデサックに入り込むしかないのかもしれない。
かつてインターネット黎明期に「eヘルス革命」などと言われたが、それらを思い起こすと、このようなリアル医療の「代用品」発想、アナロジー発想が幅を利かせていた。そして、そのほとんどはこの”Your Disease Risk”のように、ユーザーニーズを獲得しきれず、進化の袋小路に入った三葉虫やシーラカンスと同じく、Webの隅っこでひっそりと棲息するほかなかったのである。健康ポータル系サイトなどがその代表事例だろうが、もうそろそろ「インターネットらしい医療サービスとは何か?」という発想原点へ回帰すべきなのではないだろうか。リアル医療やその周辺を、Web上で代替するような発想から脱出すること。
これは「Health2.0エキソダス」への重要なポイントだと思う。
Photo by SantaRosa OLD SKOOL
三宅 啓 INITIATIVE INC.