DATA: 医療は競争市場か?

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アメリカでも医療危機ということが言われているが、やはり医療を論じる立場によって同じ「危機」と言っても、その中身は相当変わってくる。とは言え、おおむね問題の在処は、国民保険制度の未整備と医療全体の高コスト体質の2つに集約されそうである。

医療=競争なき市場

医療の高コスト体質について、今月、米国民間シンクタンクであるNPCA(National Center for Policy Analysis)が、「医療市場の競争の欠如が、医療のイノベーションを妨害しコストを増大させている」との趣旨の調査レポートを発表した。この調査レポートは、いわば市場原理の観点から医療部門の非効率性を批判したもので、論旨は明解であるが「社会保障としての医療」という見方は後退している。

NCPAのジョン・グッドマン会長は「米国において多数の人々は、どの医療費もその三分の一が浪費されていると見ている」と述べ、「これは普通の競争市場ではあり得ない種類の浪費である」と付け加えている。

実際、医療市場は、競争がないほとんど真空地帯と言えるかもしれない。NCPAの調査レポートによれば、たいていの医療費は雇用者やヘルスプランによって支払われるから、患者は保険に加入していれば医療費をほとんど心配することはないし、また病院や医師は提供サービスの価格や質を公開する理由がないのである。

「治療の前に、価格を医者や病院が言わない主な理由は、彼ら医療者が価格に基づいた患者をめぐる競争をしていないからだ」とグッドマン会長は指摘している。「価格競争をしないから、質の競争もしていない。本質的には、医者や病院は患者をめぐる競争をまったくしていないのだ。」

コスト高騰、イノベーション遅滞

このような医療市場における競争の欠如によって、価格は高騰し、技術的イノベーションは遅滞し、医療の質は停滞すると調査レポートでは指摘されている。「競争の主たる障害は、現状の第三者支払い制度である。政府は私的支払機関(ヘルスプランなど)同様、悪弊を助長している。」とグッドマンは主張する。「たとえば保険会社は、たとえそれがコストを下げ質を改善出来るかもしれないサービスであっても支払いをしないので、医療機関側はイノベーションのチャンスを逸していることになる。それは、たとえば次のようなイノベーションの機会である。」

● メールや電話診察: 慢性疾患患者に対し、より良い安上がりの医                者へのアクセスを提供できる。

● EHR: 継続的にコストを抑え質を高めることが出来る。

● 患者教育: 患者自身が自己ケアを管理する一助となる

● 統合的なケア: 余分なものを抑制することでケアを改善できる。

患者が直接支払うような医療市場の分野では、コストは減少し、質は高められ、イノベーションは十分におきている。例えば、整形外科やレーシック手術は、需要が増大し技術進歩が進展する一方、コストは減少したとレポートでは報告されている。

加えて、ミニットクリニックのような新しいタイプの医療機関は、特に技術的に進歩している。彼らは治療プロトコルを支援するソフトウエアをしばしば使い、医療記録を電子的に保存し、オンラインで処方箋を出している。技術をうまく活用し質を高めている。それらの挑戦がベスト・プラクティスを促進し、ケアコーディネーションを改善し、医療過誤を減らし、そしてさらに有害な薬物相互作用まで未然に防ぐからである。

「支払者達があなたの仕事への支払いを縮減しようとしている時、あなたは支払いを受ける仕事をするだけで精一杯で、他に何か新しいことに挑戦する余裕はない。」とグッドマン会長は言う。この医療者側の心理メカニズムが、医療現場のイノベーションとコスト削減のモチベーションを萎縮させていると調査レポートは指摘している。

医療市場改革の鍵

医療システムの変化を促進するためには、「われわれは患者をエンパワーしなければならないし、患者自身の医療費を彼ら自身がもっと多く管理できるようにしなければならない」とグッドマンは述べている。

「たとえば調剤薬市場では、多くの人々が自腹で払っている。そのことが安い処方先薬をもとめてオンラインショッピングするブームに繋がった。」

「私は(医療界における)透明性促進の動きすべてを良いことだと思っている。そして、価格を明示し、サービスの質に関する情報を公開することを病院や医者に奨励することは、良い傾向だと考える。しかし、それらは本当の競争の代わりにはならないのだ。」

競争を医療システムに導入することは市場を変えるキイであると、調査レポートは述べている。「第三者の支払機関は、サービスを改善し価格を下げる努力をしている企業によって提供されるサービスに、もっと支払いを増やすべきだ。」とグッドマン会長は言う。このことはミニットクリニックなど新しいタイプの医療機関からすでに始まっている。従来の医療機関よりもコストが安いと判断するから、伝統的な支払いスキームから支払機関が手を引く動きが起きている。

これら米国における医療システムの改革期が、今後どのくらいの期間続くのかは不明だが、システムの外部からの競争、たとえばウォークインクリニックや医療ツアーのような新規チャレンジは今後ますます増大するだろう、とグッドマン会長は指摘する。

Source: NCPA Study Shows Employers, Insurers and Government Mostly to Blame


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