患者側のIT化への視線(1) 

PatientHands

レセプト電算化、PHR、EHR、e-Prescribing(電子処方箋)など、日本の医療界のIT化は遅々として進みませんが、他方、患者をはじめ闘病者に対するITによる情報サービス領域が存在することを忘れてはらならないでしょう。

医療提供者側のIT化は紆余曲折はあるでしょうが、いずれ実現されていくはずです。しかしそれと同時に、医療を受け取る患者側にもITによる情報サービスが提供されなければ、医療全体の効率化と利便性の高度化を実現することはできないでしょう。また、従来「情報の非対称性」という言葉が語られてきましたが、医療提供者側のIT化が進むことにより、医療受療者(患者)側との間に、情報利用の効率性と利便性をめぐる非対称性が拡大することは予想できることです。

インターネットが利用できるようになって、患者-闘病者側に対する情報サービスを提供する道が広がりましたが、この10年ほどの推移を見ていると、医療提供者側からインターネットによって新たに提供された情報サービスは、ほとんどまったくなかったといっていい状態です。あえて言えば「病院ホームページ」ということになるのでしょうが、医療機関側はWebサイトを単なる広告看板かパンフレット程度にしか見ておらず、積極的にサービスを開発しようという意欲を持つ医療機関は日本では皆無でありました。

それと従来の医療機関のWebサイトは、主として地域医療圏の生活者に対する基本情報伝達の役割程度にしか位置づけられておらず、まさに自院の「顧客」である入院患者や外来患者に対する情報サービスにはほとんど目が向けられず、手薄になっていたのが実情でした。この点では、医療界は他産業に比し、大きくサービスの量も質も遅れているといわざるを得ません。

このような状態の中で、まず、たとえば入院して闘病記サイトを開設したいと考える闘病者は大変な苦労を味わいました。ネット環境が病院に充分に整備されておらず、病室の電話機からダイアルアップで接続できる人はまだましなほうで、病室からアクセスすることをあきらめた人や、家族に代行を頼んだ人が多かったようです。この状態は、現在でもそんなに大きく改善されていないように思えます。医療提供者の論理から行くと、「患者の情報環境なんぞ二の次」ということになるのでしょうが、今日の闘病者はWebで学び情報武装するという活動的な顔を持ち始めており、その情報ニーズは以前にも増して高度化していることを理解しなければならないでしょう。

これまでは「病院ホームページ」を作って、一通りの情報を掲載しておけば良いだろうということでしたが、今後は病院に来る入院患者、外来患者、見舞い客など闘病者のために、まずはネット接続環境をどのように提供するかから考えてもらいたいと思います。 「最初に接続環境ありき」であり、ネット接続がすべてのIT利用の前提だからです。「どんなコンテンツを置くか」ではなく、「病院に来た人がネットに接続できること」が優先されるのです。やはり無線LANの環境を病院で提供することになるでしょう。

そして、病院で誰もが容易にネット接続できる環境を実現した後、接続ユーザーに対しどのようなサービスを提供するかが問題になりますが、これは従来のような過剰装飾したWebページに、通り一遍の「院長挨拶」や「理念」などを見せるのではなく、「ユーザーが実際に使える便利な機能」を実装してもらいたい。それも病院の医療現場と直接コミュニケーションできたり、自分の検査データがいつでも見れたりできるような実際的な機能を提供すべきです。

たとえば患者-闘病者にブログ、メール機能など、病院が独自提供する例がこれから出てきてほしいと思います。まずは先進事例として、米国の病院の最新動向を次回のエントリーでご報告したいと思います。

(続く)
(Photo by BohPhoto)

三宅 啓   INITIATIVE INC.


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>