「プロフェッショナルSNS」の考察

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先週のエントリー(医師SNSのSermoがFDA(米国食品医薬品局)と提携)を書いた後で、医療SNSをめぐり、いくつか気になるポイントが頭に浮かんだ。それを整理してみると、どうやら二つの問題に集約されそうだ。そのうちのひとつは「SNSの新しい展開の可能性」。そしていまひとつは「観察と調査」の問題である。

このブログでもかなり紹介してきたが、ここ一年くらいの間に米国では医療者SNSが多数出現した。だが、Sermoなどを考えてみると、これまで一般的にSNSと称されてきたサービスとは性格がだいぶ違うような気がする。従来のSNSは、いわば「お友達ネットワーク」という性格を持ち、主として社交の場をネット上に提供するものであった。

それに対しSermoの場合、その目的は集合的な知識生産と交換の場を作り出すことにあり、「お友達付き合い」という社交的性格は弱まっている。こうなると、これを従来のSNS一般に帰属させることには無理があり、「プロフェッショナルSNS」とでも呼ぶべき新たなカテゴリーが生まれつつあるのではないかと考える。

プロフェッショナルSNSとは「専門的な知識生産と交換の場」である。特定専門分野のプロフェッショナルが結集し、相互に経験と知識を共有し触発しながら、協同して新しい知識を生産し交換する。このような知識生産工場にして知識交換市場は、従来の学会とか研究会といったリアルの職能集団に比べ、その生産効率は高く交換スピードは速い。

だが問題は、SNSが閉じられた空間であり外部から可視化されないという点だろう。Googleから見えないのだ。産出される知識は内部メンバー間で共有されても、広く社会的に共有されることはない。通常の「お付き合いSNS」であるなら、このことはあまり問題にならない。だが、プロフェッショナル集団が生み出す価値ある知識が、一定のメンバー内部で閉ざされるというのはもったいない話ではないか。

しかし一方、プロフェッショナルSNSはメンバー資格を厳密に制限しなければ、その専門性を高度に維持することができない。だから、一定の資格ホルダーのみに参加メンバーを限定することが、結果として閉鎖空間を作ることになる。

では、内部生産されながら外部に閉ざされた知識成果を、外部に可視化したりアウトプットする方法はないのだろうか。Sermoの場合は、外部の企業、研究者、団体に対して有料で内部を観察する権利を売っているわけだ。このようにサイト内部の「観察と調査」を商品化することにより、内部成果を外部に有料で出力するという形で、プロフェッショナルSNSのビジネスモデルが成立することになる。

さて、ではこの「観察と調査」は、プロフェッショナルSNS内部にどのような影響を与えるだろうか。「観察」が介在することをメンバー全員が知っているとすれば、当然、内部の知識生産と交換にバイアスがかかる。あるいは内部活動の中立性が揺らぎ始めることも予測される。観察者となった企業が、自社製品のプッシュを特定メンバーに働きかける可能性もある。

だが、まだプロフェッショナルSNSは起動し始めたばかりである。内部でどのような知識生産がおこなわれるか、非常に興味深いところだが、外部のわれわれにはそれが見えないのが残念だ。

Photo by christophercarfi

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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