Health2.0—医療における患者生成コンテンツ

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9月6日付け「Economist」誌に「Health2.0」と題する記事が掲載された。メインストリーム経済誌にHealth2.0という文言が登場するのは、おそらくこれが初めてだろう。

ジュピターリサーチ社の市場調査によれば、米国のインターネットユーザーの20%以上が何らかの形で医療関連コンテンツを制作し配信しているとのこと。「Economist」誌はこれら医療関連UGC(ユーザー生成コンテンツ)の爆発的拡大とそれが医療に与える影響に注目している。記事中で言及されているトピックスをまとめてみる。

●米国インターネット利用者の約三分の一が、インターネットできわめて役に立つ医療情報を見つけたと考えている。逆に不正確で有害な情報を見つけたと答えたのは3%。
●ウェブ上の患者コミュニティで配信される情報は非常に正確である。BMJ(Britsh Medical Journal)の2004年の調査では、不正確な情報は6%にすぎなかった。
●アメリカがん協会の調べでは、ウェブ・コミュニティ上に配信された不正確な情報は、参加ユーザーによって平均して2時間以内に訂正されることがわかった。

医療情報に関してはやはりその正確さが問題となる。ウェブ上には不正確で誤った情報は存在するが、上記トピックスに見るように、ユーザーは次第にそれを見極める力をつけてきており、また十分なユーザー数があれば不正確な情報を短時間に訂正するメカニズムも生成される。

糖尿病やうつ病や、まだあまり知られていない慢性疲労症候群など、多数の慢性疾患を患っている人々は、自分と同じ病状にある他の人からの情報を切望している。そして今日、一連の医療知識は膨大な量となっており、医師にとってさえそれら全部を知ることは困難になってきている。たとえばサンフランシスコの非営利TV局プロデューサーであるキャシー・フィッシャーの場合、かかりつけ医からは必要な医療情報を得られていなかった。そこで彼女は、同じように子宮筋腫手術を経験した人々と連絡を取るために、オンライン・グループに参加している。
Source:Economist,Sep 6th 2007)

これはTOBYOの基本コンセプトにも通ずるのだが、「自分と同じ病気を体験した人からの情報」が患者が最も欲しい情報である。ネット以前の時代にはこれらの情報を集めることは難しく、患者会など支援組織に入らなければなかなか入手できなかった。だが今日、すでに膨大な量の患者体験情報が患者自身によって、闘病記などの形でウェブ上に配信されており、問題は、いかに効率よく良質な情報をアグリゲートするかに移ってきているのだ。

ある意味では、他の患者からのウェブベースの情報は患者が最も望むものだろう。神経病患者のオンライン支援グループである「ブレイントーク・コミュニティ」の調査によると、40%の会員が「医師が自分の質問に答えてくれなかったから、あるいは答えられなかったから、このサイトを利用している」と回答している。しかし人々を結びつけるインターネットの力は、たとえば稀な種類のがんを宣告された人が、世界中から医師を推薦したり、治療に関する体験情報を提供したりできる数百人の人々を探し出せる、というところにあるのだろう。このように説明するフライドマン氏はACOR(Association Cancer Online Resource)の設立者である。彼は、乳がん治療の不正確な情報を妻が与えられたということもあり、その後、1996年にACORを設立した。潜在的な利益を考えるとすれば、いくつかのプライバシーをあきらめることは大したことではないように思える、と彼は言う。「もしも私が非常に稀ながんだと診断されたら、二分間考えて、自分のプライバシーをあきらめることは無駄ではないと同意するだろう」。(同上)

ウェブ上の医療情報については、従来から「情報の正確性、プライバシー、セキュリティ」の三点が重要だと指摘されてきた。たしかにこれらが重要であることは否定しないが、常に呪文のようにこれらの言葉を唱えるような硬直した思考回路からは、何も新しいベネフィットを生み出すことはできないだろう。

以前、このブログで集中的にウェブ上の闘病記を取り上げ分析したことがあったが、自分の検査データや医療費、果ては自分の手術ビデオまでウェブに公開する闘病者もあり驚かされた。プライバシーをある程度公開しても、他の患者のために役立つのならかまわないという新しいプライバシー観が、闘病者側に育ってきているのも事実だ。

ある評者によれば、将来、ユーザー生成医療サイトからさらに大きなベネフィットが期待できるようだ。ブレイントーク設立を手伝ったハーバード・メディカルスクールのダニエル・ホッチ教授は、てんかんのような慢性疾患患者は、しばしば医師よりも病気のことをよく知っていることがあると強く主張する。たくさんの医師は「群衆の叡智」を利用できていない、と彼は言う。患者たちの「群衆の叡智」のほうが、彼自身の知識よりもはるかに素晴らしいと彼は考えている。300人のてんかん患者の知識を保存したWikiは、他のてんかん患者にとってのみならず、彼らを治療する医療プロフェッショナルにも計り知れないほど有益であるだろう。彼ら患者の集合的理解は「医療全体の役に立つに違いない」と彼は言う。(同上)

闘病記をPGC(患者生成コンテンツ)ととらえ、闘病体験情報をアグリゲートし共有することをわれわれはTOBYOで目指している。このEconomist記事にもあるように、もちろん第一にこのPGCアグリゲーター=TOBYOは闘病者のために役立つものにしなければならない。そしてひいてはこの闘病者の体験集合が、より広い領域で役に立てばと思う。

Source:Economist,Sep 6th 2007

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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