患者オピニオン集約、分析、社会伝達

患者のコトは、患者にきけ。

早いもので、もう二月。石神井公園では梅園の寒紅梅が盛りだ。今年はゴイサギやアオサギが多く、例年にもまして三宝寺池は鳥達でにぎやかだ。

昨年は、当ブログもYahoo!ニュース個人ニュースも、あまりエントリをポストすることができなかった。ちょうど一年前頃から開始したテキストマイニング試行に、かなりの時間を費やしたことがその主な原因であったが、家庭の事情もあった。あれやこれやで、折々の自分の考えをエントリにまとめ、公開することまで力がおよばなかったのである。今年は、できるだけ書いていこうと考えているが、さてどこまでやれるだろうか。

一昨日Yahoo!個人ニュースにポストしたエントリでは、最近話題騒然のSTAP細胞開発について書いてみたのだが、想定していた最終結論までたどりつけず、なんとも中途半端なエントリになってしまった。STAP細胞開発という破壊的イノベーションに触発されて、Health2.0やTOBYOプロジェクトの再考へと展開したかったのであるが。

STAP細胞については、ネット上で様々な賞賛があふれているが、従来の定説や常識を軽やかに飛び越えてみせたその自在で柔軟な思考のあり方に、世の多くの人が共感したということだと思う。また高度に複雑な技術によってではなく、あっけないほどシンプルな方法によって高度な成果を生み出すという、その「コロンブスの卵」的な発想が、新鮮な驚きを喚起したということもありそうだ。

いずれにせよ、このSTAP細胞開発事例に学ぶところは多いと思う。ちょうど昨年後半から、TOBYOプロジェクトの再定義をぼんやり考え始めていた時であっただけに、当方にとってはなおさらである。

TOBYOプロジェクトだが、これまでとは少し違う役割を果たしていこうと、最近考えはじめている。インターネットが社会に普及浸透することによって、医療の分野で起きた変化とは、いったい何だったのだろうか?そんなことを考えることも多い。これには様々な意見があるにちがいないが、当方はこう考えている。インターネットによって、医療分野で劇的に変わったことは、それまで自分の体験や意見を広く発表する機会を持っていなかった闘病者(患者、家族)が、自分の体験や意見を続々とネット上に公開したこと。そしてそのことで、闘病者間の相互学習、経験交流、情報交換が起き、従来の医療情報フローとは全く違う情報チャネルが、自生的に生み出されたこと。医療のプロバイダーやサプライヤーのではなく、あくまで医療ユーザーの視点から見ると、インターネットのインパクトとはそのようなものとして目に映る。そして、まさにこのことに着目して出発したのがTOBYOプロジェクトなのであった。

当初、TOBYOが目指したのは、闘病者が公開した膨大なドキュメントを構造化し、検索機能を提供し、ユーザーが求める情報へ簡単にアクセスできるようにすることであった。これによって医療ユーザーの相互学習、経験交流、情報交換を一層活発にしてもらいたいとの願いもあった。そして、現在、1200疾患、4万3千サイト、720万ページの闘病データが蓄積され、プロフェッショナル向けサービオスのdimensionsでは、文字通り縦横に検索・トラッキングができるようになった。あらためて考えてみると、これまでのTOBYOプロジェクトはネット上の闘病データを構造化し、それらを利用するためのツールを提供するものであった。

そこには「ツール」ということに対する、当方の思い入れというものも存在した。なにもかも、お膳立てしてユーザーに提供するのではなく、ユーザーの目的に応じて自由に使ってもらうほうがネット的ではないか、と考えていたのだ。しかし、そのような汎用ツールというものは、使い手側に明確な利用目的があってこそ有用性を発揮するものであり、ある意味でユーザーを選ぶという側面があることは否定出来ない。

そのことに気づいてみると、「もっと広いユーザーに使ってもらいたい」という思いも次第につのってきた。それは受動的にユーザーが使ってくれるのを待つことよりも、むしろ患者が公開した記録の集計結果を届けたり、報告したり、つまりデータ配信みたいな役割イメージに近いだろう。

というわけで、今後、TOBYOプロジェクトは新しい役割を果たしていきたい。それを端的に言い切れば、とりあえず「患者生成データを集計分析し、社会に患者オピニオンを届ける」ということになりそうだ。「この治療法に関し、胃がん患者の意見を集約すると、次のようになる」、「3000人の乳がん患者ブログを集計すると、次のようなことがわかった」、「1万人の入院患者ブログを集計すると、入院時、患者が困ったこと、不便に思ったことは、次の点であることがわかった」等々。前回エントリでも触れた、dimensionsの新規コンテンツとして準備を進めている「Analysis」は、そのような「患者オピニオン」の集計分析機能をめざしている。

そして、今後、患者オピニオンを積極的に社会に届けるパブリッシュ機能を、TOBYOプロジェクト全体で重視していきたいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

 


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