闘病記と時間

TOBYOベータ版公開時に作ったプレゼンスライドだが、あそこに、闘病者がネット上で自然発生的に形作ってきた「闘病ネットワーク圏」を「宇宙」になぞらえたページがある。実はそれには二つの意味があった。

ひとつは「闘病ネットワーク圏」の空間的な把握の仕方であり、広大なネット上に分散する闘病サイトが、ところどころで同病コミュニティの「星座」を作ったりしながら、その全体が、あたかも見上げた星空に浮かび上がる星図のように見えることを意味している。二つ目に、これら広大な空間に分散する闘病サイトが、実は別々の時間における体験を記録しており、同一空間にありながらそれぞれ固有の時間に属しているという時間的把握の問題がある。

われわれが見上げる星空は、30億光年離れた天体からやって来る光や、ほぼわれわれと同じ時間帯に属する太陽系内の天体から来る光など、さまざまに異なった時間に発せられた光を同時に見ているのだが、普通、それぞれの天体の「時間」を意識して星空を見ることはない。

そのような二つの意味を意識しながら、あのスライドのページを作ったのだが、ウェブ闘病記を考える場合、その闘病記が属する「時間」の問題は大きいと思う。だから、闘病サイトを整理する場合、その作者の基本属性情報のみならず、そのサイトの開設日時など時間情報が重要になるとわれわれは考えてきた。インターネットはアーカイブ性の強いメディアである。公開された情報は、意図的に消去されない限り、いつまでもネット上に保存されていく。今後、10年、数十年と時間を経るに従って、ますますインターネット上にはさまざまな時代に作られたコンテンツが積み上がり、併存し、あたかもそれは、違う時間に発せられた光の混在を同時に見る「星空」のような景観を呈することになるのだろう。

そうすると、まず思いつくのは闘病ネットワーク圏に時間軸を通して、時間軸上にウェブ闘病記を配列し、整理してはどうかという考え方だ。特に医療では、新学説、新治療法、新薬などは日々刻々登場しており、ある治療方法が二三年のうちに否定されるようなケースは多い。また病名自体が改変される場合も頻繁にある。つまり、闘病体験情報のうち「どの病院で治療を受けたか」も重要だが、「いつ治療を受けたか」という時間情報がその体験情報を判断する上で非常に重要になる。同じ「胃がん闘病記」であっても、10年前の体験を書いたものと、昨年の体験を書いたものを同列に見ることはできない。

先週エントリで固有名詞の問題を扱ったが、闘病体験の事実性を担保するためには、固有名詞は必須だが、さらにその上に時間情報が重要になってくる。ではこれをどのようなインターフェースで提供するかと言えば、時間軸上に闘病記を配列した一種のクロノジカル・テーブル(年表)のように提示すれば、ユーザーにとって使いやすいかもしれない。これはまだラフ・アイデアの段階だ。

TOBYOに収載されている「最古のサイト」は1995年のもので、これは現在も継続されているサイトだが、収録されている闘病記は1999年の慢性関節リウマチ体験に関するものである。また、10年以上前に開設された収載闘病サイトは約100ほどあるが、そのほとんど全部が今もなお活動中である。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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