医療情報と医療営業情報

TOBYOベータ版の公開をひかえ、目下、プレゼンテーション素材などを準備している。二月に早々と「TOBYO STRUT」というテーマソングは作ったのだが、そのまま放置しておいた。このテーマソングは、プロモーション用のショートムービーのために制作したのだが、肝心のムービーの方はまだ手付かず状態である。一方、プレゼン用のスライドについては、ほぼ構想も決まり現在制作中。

ところで、プレゼンスライドを作りながらPCのファイルを整理していると、二三年前、ある大規模病院チェーンに提案したプロジェクト企画書が出てきた。ざっと見渡しているうちに、何か、はるか大昔の遺物を見るような感にとらわれたのは、ここ二三年のうちに当方のビジネス・スタンスが大幅に変わったこともあるのだろうか。はっきり言ってしまえば、われわれが医療機関に対してプロジェクト提案するようなことは、今後、もうないだろう。また、もしも仮にそのような機会があるとしても、それに取り組むだけのモチベーションが当方にはない。日本の医療機関から、新規性のある大規模プロジェクトが立ち上がることは、おそらくないと思っている。

たとえばウェブを活用した新しい医療サービスの開発だが、ウェブに対する日本の医療機関のきわめて消極的な取り組み姿勢を嫌というほど体験したので、もはや、何も言う気も起きないのだ。現に、ウェブ上の医療情報の現状を直視してみれば、誰にも本当は医療機関発の情報がいかに少ないかがわかるだろう。病院のウェブサイトは、単なるパンフレットや広告看板と同列の「営業情報サイト」でしかない。ユーザーが、闘病者がほしいのは、その病院が得意とする分野や新しい治療方法に関する、正真正銘の「医療情報」なのだが、結局、誰も読まない「病院理念」とか「院長あいさつ」にはじまる大同小異の「営業情報」のオンパレードに辟易するのが必定である。

日本の医療機関や研究機関は、闘病者や消費者が求めている医療情報をもっと提供すべきである。一方、昨年から厚労省が各自治体に対して、地域の医療機関の「医療情報」を公開するウェブサイトを作らせているのだが、この「医療情報」は本当に闘病者や消費者が求めているものだろうか。そうではないだろう。やはり「営業情報」がメインではないか。だとすると、この自治体版医療機関ウェブサイトの、どこに積極的な意味があると言うのか?。病院検索サイトなら、民間側にくさるほど存在するというのに。

日本のウェブ上の医療情報の現状は、たしかにアンバランスだ。われわれが着目してきた闘病者側の闘病記の方が、医療機関発の情報よりも格段に多いはずだからだ。本来の情報発信側と情報受信側の構図が逆転しているのだ。これでは、医療機関が本来発信するはずの医療情報に基づいた、医療情報アグリゲーションサービスやバーティカル検索サービスが、民間側に成立しないはずである。われわれはTOBYOで、逆に医療を受け取る側の闘病者体験をアグリゲートしバーティカル検索の対象にしようとしているのだが、これは考えてみるとかなり皮肉な成り行きである。最近わかってきたのは、日本で何か医療ベンチャーを起こそうとするなら、このような類の「逆転の発想」をせざるをえないということだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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