PHRの共通基盤構築をめざし、インテル、ウォルマート、ブリティッシュ・ペトロリアムをはじめ、大手企業のコンソーシアムによって昨年暮れから華々しく開始されたDOSSIAプロジェクトであるが、崩壊の危機にあることが今月になって明らかになった。
DOSSIAプロジェクトは、同コンソーシアムを結成した大手企業6社の従業員、退職者を含め250万人の医療情報を収容する大規模PHR(Personal Health Records)として構想されていた。従来、PHRは保険会社、雇用者、専業者はじめ関係者がてんでばらばらに開発し提供していたが、データのポータビリティ、入力方法、仕様など問題山積でユーザーにとって使いにくいシステムになっていた。そこで、それらの問題を解決するために発案されたDOSSIAであるが、発表以来わずか半年あまりで危機的な状況を迎えている。
DOSSIAが直面している問題は、プロジェクトを主催するDOSSIAコンソーシアムと、システム開発を請け負う非営利団体Omnimedixの対立が直接の原因となっている。昨年末締結された契約によると、2007年の半ばまでに、DOSSIAコンソーシアムのメンバーがPHRシステムの使用を開始することになっていたが、今日に至るまでOmnimedixはシステム開発に成功しておらず、いかなる成果物もコンソーシアムに提出されていない模様。
このためOmnimedix側は総額1500万ドルの内、当面150万ドルの支払いを要求しているが、これをコンソーシアム側は拒否している。のみならずコンソーシアム側は法的措置要求を法廷に提出。事態は泥仕合の様相を呈しはじめている。
だがDOSSIAコンソーシアムのスポークスマンを兼務するインテル社のスポークスマンは、他のベンダーをプロジェクトに起用する可能性にも言及しながら、年末までにDOSSIAコンソーシアム・メンバー各社に対しPHRサービスを開始することを言明している。
米国を代表する巨大企業コンソーシアムとして注目されたDOSSIAであるが、早くも危機に直面することになった。このことは大規模PHRシステムの難しさを、改めて浮き彫りにするものと言える。それに「コンソーシアム」という組織形態の問題もあるだろう。プロジェクト全体の合意形成手順や指揮系統など、一般的に関係者が多いほどその困難度は増すはずだ。むしろ、プロジェクトのオープンソース化を最初から目指した方がよかったのではないか?。単なるクライアント企業とベンダーの対立と言うよりは、「コンソーシアム」という仲間内の閉鎖性が足を引っ張った可能性が高い。
もともとこのDOSSIAプロジェクトは、いわば「PHRのコモンズ」を目指していたはずだ。だからコンソーシアムメンバーの拡大のみならず、州政府の参画などにも注力し、パブリックな立ち位置の獲得をはかろうとしていた。つまり「特定企業グループのコンソーシアム」というスタンスでは、各団体各所に分散する個人医療情報を集めることさえおぼつかないからだ。
PHRをはじめ医療ITシステムを大規模に構築するためには、そのポジショニングが非常に重要だ。パブリックなポジショニングが最初に確立されなければ、どのような医療ITシステムもうまくワークしないのではないか。
一方、同じくPHRを目指しているGoogleHealthだが、果たしてこの「PHRの隘路」を無事突破できるのか?。
Source: InfomationWeek Jul 11,2007
三宅 啓 INITIATIVE INC.